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腰 椅子に座っていると腰が痛くなるのはなぜ?専門医が教える原因と疲れない座り方のコツ

「先生、立って歩いているときは何ともないのに、テレビを見ようとソファに座っていると腰が重だるくなるんです」
診察室では、50代から80代の患者さまから、このようなお悩みを非常によく耳にします。一般的には「座る=休む」というイメージがありますから、休んでいるはずなのに痛くなるというのは、なんだか不思議で、そして辛いものですよね。
長時間のデスクワークや運転、あるいはご自宅でのリラックスタイム。本来であれば体を休めるはずの時間が、逆に痛みの原因になってしまっているとしたら、それはとても残念なことです。でも、安心してください。「座っていると痛い」には、医学的に明確な理由と、解決策があります。
今回は、整形外科専門医の立場から、なぜ座っていると腰が痛くなるのかという意外な原因と、今日からご自宅で実践できる「腰を守る座り方」について、わかりやすくお話ししていきます。
この記事の内容
その腰痛、こんな場面で感じませんか?
まずは、ご自身の症状を少し振り返ってみましょう。一口に「座ると痛い」といっても、その状況は人によって様々です。
長時間座ったあとの「立ち上がり」が辛い
映画を見たり、食卓で会話を楽しんだりして、いざ立ち上がろうとした瞬間。「イタタ……」と腰が伸びず、しばらく前かがみにならないと動けないことはありませんか?これは「始動時痛」とも呼ばれ、固まった筋肉や関節が悲鳴を上げているサインです。
柔らかいソファだと余計に痛む
ふかふかのソファに深く沈み込むように座っていると、最初は楽に感じるのに、徐々に腰やお尻の奥がズキズキと痛んでくる。逆に、硬めのダイニングチェアの方がまだ楽に感じる、というケースも多く見られます。
車の運転中やデスクワーク中
集中して座っているときは気が張っていて大丈夫でも、ふと姿勢を変えようとしたときに激痛が走る。あるいは、お尻から太ももの裏側にかけて、しびれるような嫌な痛みが走ることはありませんか?
これらはすべて、腰に過剰な負担がかかっていることを体が教えてくれているのです。
専門医が解説する「座ると腰が痛い」3つの原因

なぜ、立っている時よりも座っている時の方が痛むのでしょうか。ここには、私たちの体の構造と重力の関係が深く関わっています。
1. 座り姿勢は立位の1.4倍の負担がかかる
これは意外に思われるかもしれませんが、実は立っている状態よりも、椅子に座っている状態の方が、椎間板(背骨のクッション)にかかる圧力は高いというデータがあります。 立っているときは、足、膝、股関節と、体重を分散して支えるクッションがたくさんあります。しかし座ってしまうと、上半身の重さがすべて「腰」と「骨盤」だけに集中してしまうのです。 特に前かがみの猫背姿勢で座ると、その負担はさらに増大し、椎間板や腰の筋肉に大きなストレスを与え続けます。
2. 骨盤が後ろに倒れている(後傾)
加齢とともに、どうしても背中の筋肉が弱くなり、背中が丸くなりやすくなります。 椅子に座ったとき、おへそが上を向くように骨盤が後ろに倒れていませんか?いわゆる「仙骨座り」や、背もたれに寄りかかりすぎた姿勢です。 骨盤が後ろに倒れると、背骨の自然なS字カーブ(生理的湾曲)が失われ、腰の骨が本来とは逆の方向に曲げられる力が働きます。これが長時間続くと、靭帯や筋肉が引き伸ばされ、痛みが発生します。
3. 股関節まわりの筋肉が固まっている
座っている状態というのは、股関節が常に約90度に曲がっている状態です。 このとき、お腹の奥にある「腸腰筋(ちょうようきん)」という筋肉が縮こまったままになります。長時間座り続けるとこの筋肉が固まってしまい、血流が悪くなります。 腸腰筋は腰の骨につながっているため、固まると腰を無理やり引っ張るような力が働き、これが腰痛の原因となるのです。「立ち上がるときに腰が伸びない」のは、まさにこの筋肉が縮んでロックされている状態だと言えます。
今日からできる!腰を守る座り方の工夫と対策

原因がわかれば、対策が見えてきます。高価な椅子を買い替える前に、まずは今ある環境でできる工夫から始めてみましょう。
「坐骨」で座る意識を持つ
椅子に座るとき、お尻の下に手を入れてみてください。ゴリゴリとした骨に触れると思います。これが「坐骨(ざこつ)」です。 背もたれにダラリと寄りかかるのではなく、この左右の坐骨が座面にしっかり突き刺さるようなイメージで座ってみましょう。そうすると、自然と骨盤が立ち、背筋が伸びやすくなります。 深く腰掛けて、背もたれとお尻の隙間をなくすのがポイントです。
タオル一本でできるサポート術
ご自宅にあるバスタオルを使ってみましょう。 バスタオルを丸めて筒状にし、椅子の背もたれと腰のくぼみの間に挟みます。 たったこれだけで、背骨の自然なS字カーブが保たれ、腰の筋肉にかかる負担が劇的に減ります。長時間のドライブや、新幹線・飛行機での移動の際にも非常におすすめの方法です。
「30分に1回」の立ち上がりルール
どんなに良い姿勢でも、同じ姿勢を長時間続けること自体が腰には毒です。 筋肉が固まり血流が悪くなるのを防ぐため、30分に1回は必ず立ち上がるようにしましょう。トイレに行く、お茶を入れる、あるいはその場で立って背伸びをするだけでも構いません。 「痛みが出る前に動く」ことが、最大の予防法です。
股関節をほぐす簡単ストレッチ
座ったまま固まった股関節をほぐす運動です。
- 椅子に浅く座り、背筋を伸ばします。
- 片方の足を両手で抱え、胸の方にゆっくり引き寄せます。
- お尻の奥が伸びているのを感じながら、深呼吸をして20秒キープします。
- 反対側の足も同様に行います。 これを1日2〜3セット行うことで、お尻や股関節周りの柔軟性が戻り、腰への負担が軽減されます。
医療機関での治療について
ご自身での対策(保存療法)を続けても痛みが取れない場合や、お尻から足にかけてしびれがある場合は、整形外科での治療が必要です。
当院のようなクリニックでは、まずレントゲンやMRIなどで骨や神経の状態を詳しく確認します。その上で、以下のような治療を提案することがあります。
投薬治療:炎症を抑えるお薬や、神経の痛みを和らげるお薬を使用します。 リハビリテーション:理学療法士が、患者さま一人ひとりの姿勢の癖を見抜き、正しい筋肉の使い方を指導します。 ブロック注射:痛みが強く、日常生活に支障がある場合は、神経の近くに麻酔薬を注射して痛みの伝達を遮断する方法もあります。
「歳だから治らない」と諦める前に、まずは痛みの原因を取り除く手助けをさせてください。
よくある質問・誤解にお答えします
患者さまからよくいただくご質問に、Q&A形式でお答えします。
Q 痛いときは、コルセットをしたまま座っていてもいいですか?
A 痛みが強い時期(急性期)は、コルセットで腰を支えることで楽に座れるようになりますので、使用していただいて構いません。ただし、何ヶ月も着けっぱなしにしていると、腰を支えるご自身の筋肉が弱くなってしまうことがあります。痛みが落ち着いてきたら、徐々に外す時間を増やしていきましょう。
Q 柔らかいソファと硬い椅子、腰痛持ちにはどちらが良いですか?
A 基本的には「適度な硬さのある椅子」をお勧めします。体が沈み込むような柔らかいソファは、骨盤が不安定になり、猫背になりやすいためです。もしソファに座る場合は、腰の後ろにクッションを挟んで姿勢を安定させる工夫をしてみてください。
Q 温めるのと冷やすの、どちらが正解ですか?
A 「ズキッと痛めた直後」で熱を持っている場合を除き、慢性の腰痛や座っていて重だるくなるような痛みは「温める」のが基本です。お風呂にゆっくり浸かったり、使い捨てカイロを使ったりして血流を良くすることで、筋肉の緊張がほぐれやすくなります。
再生医療という新しい選択肢

近年では、従来の治療に加えて「再生医療」という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体が本来持つ自然治癒力を引き出し、関節や組織の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を点滴で投与することで、膝や股関節だけでなく、腰痛などの慢性疼痛に対しても炎症を抑えたり、組織の修復を促したりする効果が期待されています。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無を医師がしっかり診断したうえで治療を検討することが大切です。
まとめ:快適に座れる時間は取り戻せます
「座っているだけなのに痛い」 これは決して、あなたの我慢が足りないわけでも、単なる老化現象として片付けていいものでもありません。体からの「座り方を見直してほしい」というサインです。
今回ご紹介した「坐骨で座る」「タオルを挟む」「こまめに立つ」といった工夫は、地味に見えるかもしれませんが、毎日積み重ねることで確実に腰への負担を減らしてくれます。
もし、ご自身で工夫しても痛みが改善しない場合や、足のしびれなどが伴う場合は、我慢せずに私たち専門医にご相談ください。 腰の痛みを気にせず、お気に入りの椅子でゆっくりとテレビを楽しんだり、ご家族との団欒を過ごしたりする。そんな当たり前の幸せな時間を、一緒に取り戻していきましょう。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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