コラム COLUMN
腰 椅子に座っていても腰が痛い?その原因と姿勢の工夫を整形外科専門医がやさしく解説

こんにちは。整形外科専門医として、日々多くの患者さんの関節や腰の痛みに向き合っているクリニック院長です。
私の診察室には、50代から80代の幅広い世代の方が来られます。その中で、最近特に増えているのが、椅子に座っているときの腰の痛みに関するご相談です。
立って歩いているときはそうでもないのに、椅子に座って30分もすると腰が重だるくなってくる。 テレビを観ていたいのに、痛くて何度も座り直してしまう。 食事の途中で腰を伸ばさないと座っていられない。
こうしたお悩みを聞くたびに、座るという、本来体を休めるはずの動作が苦痛になっている現状をなんとかしたいと感じます。
「もう歳だから仕方ない」と諦めてしまうのは、まだ早すぎます。実は、椅子に座っているときの腰痛には明確な理由があり、ちょっとした工夫でその痛みを和らげることができるのです。
今回は、なぜ座っていると腰が痛くなるのかという原因から、今日からすぐに実践できる座り方のコツ、そして痛みを予防するための簡単なストレッチまで、専門医の視点でわかりやすく解説していきます。
この記事の内容
なぜ「座っているだけ」なのに腰が痛くなるのか
多くの患者さんは「立っているときよりも、座っているときの方が楽なはずだ」と思われています。しかし、医学的な視点で見ると、実は椅子に座っている姿勢は、立っている姿勢よりも腰の骨(腰椎:ようつい)やその間のクッション(椎間板:ついかんばん)に大きな負担をかけているのです。
ある研究データによると、椅子に座っているときの腰への圧力は、真っ直ぐ立っているときに比べて約1.4倍から1.5倍も高くなると言われています。もし、背中を丸めて座る「猫背」の姿勢になっていれば、その負担は2倍近くまで膨れ上がります。
では、なぜ座る姿勢がそれほどまでに腰へ負担をかけるのでしょうか。主な原因を3つに分けて見ていきましょう。
1. 骨盤の「後ろ倒れ」
椅子に座ると、多くの人の骨盤は後ろ側にコロンと倒れやすくなります。これを専門用語で「骨盤の後傾(こうけい)」と呼びます。 骨盤が後ろに倒れると、その上に乗っている背骨は自然と丸まり、猫背になります。この姿勢は、腰の筋肉を常に引っ張った状態にし、血流を悪くして痛み(重だるさ)を引き起こします。
2. 腹筋や背筋の筋力低下
50代を過ぎると、意識していないと筋肉量は徐々に減少していきます。特に体を支える「インナーマッスル」と呼ばれる深い部分の筋肉が弱くなると、座っているときに骨盤を正しい位置でキープできなくなります。 筋肉がサボってしまう分、すべての重みが骨や関節に直接かかってしまうため、痛みが強く出やすくなるのです。
3. 股関節の硬さ
意外かもしれませんが、腰の痛みには股関節の柔軟性が大きく関わっています。股関節が硬いと、座ったときに骨盤を適切な角度に保つことができず、そのしわ寄せがすべて腰に集中してしまいます。
椅子に座るという動作は、静止しているようでいて、実は腰回りの複雑な仕組みによって支えられているのです。

腰に負担をかけない「理想的な座り方」3つのポイント
痛みの原因がわかれば、次は対策です。明日からではなく、今この文章を読んでいる瞬間から意識できる「腰にやさしい座り方」をお伝えします。
ポイントは、骨盤を「立てる」ことです。
1. お尻の「坐骨」で座る
お尻の下に手を入れてみてください。ゴツゴツとした硬い骨が当たりますよね。これが「坐骨(ざこつ)」です。 この左右の坐骨に均等に体重が乗るように座るのが、最も腰に負担の少ない状態です。背もたれに寄りかかりすぎて、お尻の平らな部分(仙骨:せんこつ)で座ってしまう「ずっこけ座り」は、腰痛を悪化させる最大の原因ですので注意しましょう。
2. 三つの「90度」を意識する
椅子に座った際、以下の3か所がそれぞれ約90度になるように調整してみましょう。
足首(足の裏がしっかりと床につく) 膝(膝の裏が椅子の座面に圧迫されない) 股関節(お尻と背中の角度)
特に足の裏が浮いていると、上半身の重さを足で分散できず、すべて腰が引き受けることになります。もし椅子が高すぎる場合は、足元に踏み台や厚めの本を置いて調整してみてください。
3. バスタオルを活用した「背当て」
多くの椅子は、人間の背骨の自然なカーブ(緩やかなS字)にフィットするようには作られていません。 そこで役立つのが、家庭にあるバスタオルです。バスタオルを丸めて、椅子と腰の隙間(ちょうどウエストのあたり)に挟んでみてください。これだけで骨盤が自然に立ち、腰の筋肉がリラックスするのを感じられるはずです。

自宅でできる!椅子に座ったままの簡単ストレッチ
座っている時間が長くなると、筋肉が固まって血行が悪くなります。1時間に1回は椅子に座ったままできる簡単なストレッチを行って、筋肉をリセットしてあげましょう。
股関節をほぐすストレッチ
- 椅子に浅めに腰掛け、片方の足のくるぶしを、反対側の膝の上に乗せます(数字の4を作るイメージです)。
- 背筋をスッと伸ばします。
- そのままゆっくりと上半身を前に倒していきます。
- お尻の外側が「気持ちよく伸びているな」と感じるところで20秒キープします。
- 反対側の足も同様に行います。
これを行うと、股関節の可動域が広がり、座ったときに骨盤を立てやすくなります。
腰回りを緩める回旋ストレッチ
- 両足をしっかりと床につけて座ります。
- 右手で椅子の背もたれを持ち、ゆっくりと体を右にひねります。
- 呼吸を止めずに、腰から背中にかけてじわじわと伸ばします。
- 15秒ほどキープしたら、左側も同様に行います。
無理にグイグイとひねるのではなく、深呼吸をしながら「筋肉に酸素を届ける」ようなイメージで行うのがコツです。

整形外科での一般的な治療と向き合い方
自分での工夫だけでは痛みが改善しない場合、一度整形外科を受診することをお勧めします。私たち医師は、単に「湿布を出して終わり」ではなく、痛みの根本的な原因を医学的に診断します。
病院では以下のような「保存療法(手術をしない治療)」を組み合わせて進めていくのが一般的です。
薬物療法:痛みが強い時期には、内服薬や外用薬(塗り薬・貼り薬)を使って炎症を抑えます。 理学療法:専門の理学療法士が、一人ひとりの体の硬さや筋力に合わせたリハビリテーションを行います。これが最も重要で、正しい体の動かし方を学ぶことができます。 装具療法:コルセットなどを使用して、一時的に腰の負担を軽減し、痛みのサイクルを断ち切ります。 注射療法:神経の周りに薬を注入するブロック注射や、関節の潤滑を助ける注射を行うこともあります。
「病院に行ったらすぐに手術と言われるのではないか」と不安に思う方もいらっしゃいますが、実際には多くの腰痛が、こうした保存療法と生活習慣の改善で良くなっていきます。
大切なのは、痛みを我慢しすぎて動かなくなり、さらに筋力が落ちて痛みが悪化するという「負のスパイラル」に入らないことです。
よくある質問・誤解への回答
ここで、診察室で患者さんからよく受ける質問にお答えします。
Q. 腰が痛いときは、できるだけ安静にして動かない方がいいのでしょうか?
A. 激しい痛みがある直後の数日間は安静が必要ですが、その後は無理のない範囲で動かした方が回復は早まります。 ずっと寝たきりでいると、腰を支える筋肉がみるみるうちに弱くなってしまい、かえって治りが遅くなることがわかっています。痛みの様子を見ながら、少しずつウォーキングやストレッチを取り入れていくのが現在の医学の常識です。
Q. 椅子は柔らかいクッション性の高いものの方が、腰には良いのでしょうか?
A. 実は、柔らかすぎる椅子は腰痛の方にはあまりお勧めできません。 体が深く沈み込んでしまうと、骨盤が後ろに倒れて固定されてしまい、姿勢を正すのが難しくなるからです。ある程度の硬さがあり、座ったときに坐骨でしっかりと体重を支えられる椅子の方が、結果として腰への負担は少なくなります。低反発よりも、高反発のクッションの方が腰を支える力には優れています。
Q. 「年齢のせいだから治らない」と言われましたが、本当に改善しますか?
A. 年齢とともに背骨に変形(変形性脊椎症など)が出るのは自然なことですが、変形があることと、痛みがあることは必ずしも一致しません。 背骨の形そのものを若返らせることは難しくても、周りの筋肉をほぐしたり、座り方の習慣を変えたり、支える筋肉を維持したりすることで、痛みを感じない生活を送ることは十分に可能です。「年齢のせい」という言葉で片付けず、今の体でできる最善のケアを見つけていきましょう。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて「再生医療」という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体が本来持つ自然治癒力を引き出し、関節や組織の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を点滴で投与することで、膝や股関節だけでなく、腰痛などの慢性疼痛に対しても炎症を抑えたり、組織の修復を促したりする効果が期待されています。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無を医師がしっかり診断したうえで治療を検討することが大切です。

まとめ:あなたの腰をいたわる生活を始めましょう
椅子に座っているときの腰痛は、体からの「ちょっと姿勢を見直して」「筋肉を休ませて」という大切なサインです。
今回ご紹介した「坐骨で座る」「三つの90度」「バスタオル背当て」といった工夫は、今日からすぐに始められるものばかりです。たとえ長年の習慣でついた姿勢の癖であっても、意識して少しずつ変えていくことで、体は必ず応えてくれます。
また、痛みがあることは決して恥ずかしいことではありませんし、一人で抱え込む必要もありません。自分なりのケアをしても改善が見られないときや、足に痺れ(しびれ)や力が入らない感覚があるときは、迷わず整形外科の門を叩いてください。
50代、60代、そして80代になっても、椅子にゆったりと腰掛けて、読書や食事、家族との会話を楽しめる時間は何にも代えがたい喜びです。その穏やかな時間を守るために、まずは「座り方」という小さな一歩から始めてみませんか。
私たちは、あなたが健やかな毎日を送れるよう、これからも医学的な知見を持ってサポートし続けていきます。
次にあなたが椅子に座るとき、少しだけ「骨盤を立てること」を思い出していただけたら、これほど嬉しいことはありません。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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