コラム COLUMN
膝 正座すると膝の裏が痛いのはなぜ?原因と対策を整形外科専門医が詳しく解説

最近、当院の外診室でこのようなご相談をよく受けます。
「以前は普通にできていた正座が、最近はどうも膝の裏が突っ張るようで痛いんです」 「法事や習い事で正座をしなければならないのに、怖くて膝を曲げられない」
50代を過ぎ、60代、70代、80代と年齢を重ねるにつれて、膝の悩みは増えていくものです。特に「膝の裏の痛み」は、膝の前面の痛みとはまた違った不安を感じさせますよね。何か悪いものが溜まっているのではないか、無理に曲げたら壊れてしまうのではないか、と心配になる方も少なくありません。
実は、正座のときに膝の裏が痛む原因はいくつかあり、それらは決して「年のせいだから仕方ない」の一言で片付けられるものではありません。適切な知識を持ち、正しく対処すれば、その重だるい痛みや違和感を軽減し、日常生活をより快適に過ごすことができます。
今回は、整形外科専門医の視点から、正座で膝の裏が痛む正体と、今日からできる対策について分かりやすく丁寧にお伝えしていきます。
この記事の内容
どんなときに痛む?膝の裏が気になる場面と症状
まずは、皆さんがどのような場面で痛みを感じているか、整理してみましょう。患者さんからは、以下のようなお声をよく伺います。
・正座をして体重をかけた瞬間に、膝の裏に「ピキッ」と鋭い痛みが走る ・正座から立ち上がるときに、膝の裏が固まったようで伸びにくい ・膝を深く曲げると、膝の裏にボールが挟まっているような圧迫感がある ・階段を下りるときに、膝の裏が突っ張って力が入らない ・朝起きたとき、膝の裏が重だるく、動き出しに違和感がある
こうした症状に共通しているのは、「膝を深く曲げる(深屈曲)」という動作や「体重がかかる」という負荷によって痛みが誘発されている点です。膝の裏は、血管や神経、そして多くの筋肉が密集している非常にデリケートな場所です。そのため、膝関節の中で起きているわずかな変化が、痛みとして敏感に現れやすい部位でもあります。
なぜ正座で膝の裏が痛むのか?考えられる主な原因
膝の裏の痛みには、いくつか代表的な病気や状態が隠れています。難しい専門用語をなるべく使わずに、たとえ話も交えながら解説しますね。
1. ベーカー嚢腫(のうしゅ):膝の裏に水が溜まる状態
膝の裏の痛みの原因として、非常によく見られるのが「ベーカー嚢腫」です。 膝の関節は「滑液(かつえき)」という潤滑油で満たされています。膝に炎症が起きると、この油が過剰に作られてしまい、膝の裏側にある袋に溜まってしまうことがあります。
例えるなら、膝の裏に小さな「水風船」が挟まっているような状態です。 正座をしようと膝を深く曲げると、この水風船が周囲の神経や筋肉を圧迫するため、重だるい痛みやパンパンに張ったような感覚が生じます。
2. 変形性膝関節症(へんけいせいしざかんせつしょう)
50代以降の方で最も多いのが、加齢によって軟骨がすり減る「変形性膝関節症」です。 膝の軟骨が減ると、関節の中で炎症が起きやすくなります。この炎症が膝全体に広がり、関節を包んでいる膜(関節包)の後ろ側が硬くなったり、先ほど説明したように水が溜まったりすることで、膝の裏に痛みが出ます。
「膝の前側が痛いもの」と思われがちですが、実は初期や中期の段階では、膝の裏の突っ張り感として症状が出ることも珍しくありません。
3. 半月板(はんげつばん)の損傷
膝の中には、クッションの役割を果たす「半月板」という軟骨のような組織があります。 この半月板の後ろ側(後角)に傷が入ったり、変形したりすると、膝を深く曲げたときにその傷口が刺激され、鋭い痛みを感じることがあります。特に、正座のような深い角度まで曲げる動作は、半月板の後ろ側に最も大きな負担がかかるため、痛みが顕著に出やすいのです。
4. 筋肉や腱の柔軟性の低下
病気というほどではなくても、膝を支える筋肉や腱が硬くなっているケースも多いです。 膝の裏には、太ももの後ろの筋肉(ハムストリングス)や、ふくらはぎの筋肉がつながっています。加齢や運動不足によってこれらの筋肉が硬くなると、膝を曲げる際の「ブレーキ」になってしまい、無理に引き伸ばされることで痛みが生じます。
これは、古いゴム紐を無理に伸ばそうとするとパツパツに張ってしまう状態に似ています。

正座の痛みを和らげるための具体的な対策と予防法
膝の裏が痛いとき、ただ我慢するのではなく、日常生活の中で工夫できることがたくさんあります。無理のない範囲で取り組んでみましょう。
負担の少ない生活スタイルへの切り替え
一番の対策は、痛みが出る動作を避けること、つまり「無理な正座を控える」ことです。 「正座ができないのは修行が足りないからだ」とか「我慢して曲げれば柔らかくなる」と考える方がいらっしゃいますが、これは逆効果になることが多いです。痛みがあるときは、関節が「これ以上曲げないで」というサインを出しています。
・法事や集まりでは、椅子やスツールを利用する ・床に座る生活(和式)から、椅子やベッドを使う生活(洋式)へ少しずつ移行する ・どうしても正座が必要なときは、正座補助椅子(正座椅子)を使い、膝への体重負担を減らす
これだけでも、膝へのストレスは劇的に軽減されます。
筋肉を優しくほぐすストレッチ
筋肉の硬さが原因の場合は、お風呂上がりなどの血行が良い時にストレッチを行うのが効果的です。ただし、膝を無理に曲げるのではなく、「膝の裏をゆっくり伸ばす」意識で行いましょう。
簡単なストレッチ:
- 椅子に浅く座り、片方の足を前に伸ばします。
- かかとを床につけ、つま先を天井に向けます。
- 背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと体を前に倒していきます。
- 太ももの後ろから膝の裏にかけて、気持ちよく伸びているのを感じながら20秒キープします。
これを左右交互に行うことで、膝の裏側の筋肉の柔軟性が高まり、圧迫感が軽減されることがあります。
病院での一般的な治療法
セルフケアで改善しない場合は、整形外科を受診しましょう。一般的な治療には以下のようなものがあります。
・消炎鎮痛剤(飲み薬や貼り薬):炎症を抑えて痛みを和らげます。 ・ヒアルロン酸注射:関節の動きを滑らかにし、炎症を鎮めます。 ・ベーカー嚢腫の穿刺(せんし):溜まった水を注射器で抜く処置です。これだけで膝がすっと軽くなる方も多いです。 ・物理療法:電気を当てたり、温めたりして血行を促進します。
専門医に相談することで、自分の痛みの原因が「水」なのか「軟骨」なのか「筋肉」なのかがはっきりし、それだけで安心される患者さんもたくさんいらっしゃいます。

よくある質問・誤解への回答
膝の痛みについて、診察室でよく受ける質問にお答えします。
Q:膝の裏が痛いときは、無理にでも動かして解したほうがいいですか?
痛みがあるときに無理に動かすのは避けてください。 特に、鋭い痛みがあるときや、膝が熱を持って腫れているときは、関節の中で炎症が強まっているサインです。その状態で無理に正座をしたり、激しい運動をしたりすると、症状を悪化させてしまう恐れがあります。まずは安静を心がけ、ストレッチをするにしても「痛くない範囲で気持ちいいと感じる程度」にとどめるのが鉄則です。
Q:膝の裏に塊(しこり)のようなものがありますが、これは腫瘍ですか?
多くの場合、それは先ほど説明した「ベーカー嚢腫」という水の溜まりです。 良性の袋ですので、がんのような悪性腫瘍であることは稀ですが、自己判断は禁物です。大きくなると血管や神経を圧迫して足のむくみやしびれの原因になることもあります。まずは整形外科で超音波(エコー)検査などを受け、中身が何であるかを確認してもらうのが一番安心です。
Q:加齢による膝の痛みは、一生付き合っていくしかないのでしょうか?
「年齢のせいだから」と諦める必要は全くありません。 確かに軟骨の経年変化は誰にでも起こりますが、痛みの強さは軟骨の減り具合だけで決まるわけではありません。周りの筋肉を整えたり、生活習慣を少し変えたりするだけで、痛みとうまく付き合いながら元気に歩き続けている方は大勢いらっしゃいます。今の医学では、手術以外にも痛みをコントロールする方法がたくさんありますので、前向きに取り組んでいきましょう。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

まとめ:あなたの膝を大切にするために
正座をすると膝の裏が痛む。それは、あなたの膝がこれまで一生懸命に体を支えてきた証でもあります。
もし今、痛みで大好きな趣味を諦めたり、外出を控えたりしているのであれば、とてももったいないことです。膝の裏の痛みは、適切な診察とケアによって、多くの場合で改善や緩和が期待できます。
・無理な正座は避けて、椅子を活用する ・膝の裏を優しく伸ばすストレッチを取り入れる ・不安なときは我慢せず、専門医に相談する
この3点を意識するだけでも、将来の膝の健康状態は大きく変わってきます。
年齢を重ねることは、決して下り坂ではありません。ご自身の体を労わり、上手に手入れをしながら、これからも彩り豊かな毎日を過ごしていただきたいと願っています。私たち整形外科医は、そのための頼れるパートナーとして、いつでもあなたのそばにいます。
気になる症状があれば、いつでもお気軽に相談してくださいね。一緒に、より良い解決策を見つけていきましょう。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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