コラム COLUMN
スポーツ外傷 一生ゴルフを楽しむために!整形外科医が教える、関節にやさしいウォームアップとケア

診察室にいると、ゴルフを愛する患者さんからこのような声をよく耳にします。
「先生、まだゴルフは続けたいんだけど、ラウンドの翌日は膝が痛くて階段が降りられないんだよ」 「腰が怖くて、思い切りスイングができなくなってしまった」
ゴルフは年齢を重ねても楽しめる素晴らしいスポーツです。緑の中で体を動かすことは、心身のリフレッシュになりますし、健康維持にも最適ですよね。しかし、50代、60代、そして80代と年齢を重ねるにつれて、関節への負担が無視できなくなってくるのも事実です。
「もう歳だから引退かな」と考える前に、少しだけ「体の使い方」と「準備」を見直してみませんか?
今回は、整形外科医の視点から、関節を守りながら長くゴルフを楽しむための「関節にやさしいウォームアップ」と「プレー後のケア」についてお話しします。
この記事の内容
ゴルフが関節に負担をかける「本当の理由」

まずは、なぜゴルフが関節、特に膝や腰、股関節に負担をかけるのか、そのメカニズムを少しだけ解説しましょう。
ゴルフのスイングは、日常動作にはない特殊な動きの連続です。特に負担がかかるのが「回旋動作」、つまり体をねじる動きです。
人間の膝関節は、本来「曲げる・伸ばす」という動きには強いのですが、「ねじる」という動きにはあまり強くない構造をしています。スイングの際、足は地面に固定されたまま、体幹を強くねじりますよね。このとき、ねじれの力が膝や股関節に集中的にかかります。
さらに、多くのゴルファーに見られるのが「準備不足」です。
朝、車を運転してゴルフ場へ向かいますよね。1時間以上座りっぱなしで、股関節や腰回りの筋肉がカチカチに固まった状態になります。その状態で、到着していきなり素振りをしたり、パター練習だけでスタートホールに向かったりしていませんか?
油が回っていない錆びついた機械を無理やり動かすようなもので、これでは関節が悲鳴を上げるのも無理はありません。これが、痛みや怪我の大きな原因となっているのです。
スタート前の「動的ストレッチ」がカギ

では、具体的にどうすればよいのでしょうか。ここで大切なキーワードが「動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)」です。
昔ながらのストレッチといえば、アキレス腱をじっくり伸ばしたり、前屈をして静止したりする「静的ストレッチ」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、運動前の準備としては、体を動かしながら筋肉の温度を上げ、関節の可動域を広げる「動的ストレッチ」が医学的に推奨されています。
特に関節を守るために重要な、2つのポイントに絞ったウォームアップをご紹介します。クラブを杖代わりに支えにしながら行うと安全です。
1. 股関節の油を差す「足の振り子運動」
股関節が硬いと、スイングの回転不足を腰や膝で代償しようとして、痛みの原因になります。股関節をスムーズに動かせるようにしましょう。
やり方 クラブを立てて右手で持ち、体を支えます。 左足を前後にゆっくりと、振り子のようにブラブラと振ります。 最初は小さく、徐々に大きく振ります。力まずに、足の重みを感じながら行うのがポイントです。 片足10回ずつ行いましょう。
これにより、股関節周りの筋肉がほぐれ、スムーズな体重移動が可能になります。
2. スムーズな回転を作る「肩甲骨まわし」
「膝の話なのに肩甲骨?」と思われるかもしれませんが、実は密接に関係しています。上半身(特に肩甲骨)の動きが悪いと、体が十分に回らず、無理に回そうとして腰や膝に過剰なねじれが生じるからです。
やり方 クラブを両手で持ち、肩幅より広く握って、胸の前へ突き出します。 そのままクラブを頭の上へ持ち上げ、可能であれば頭の後ろへ下ろします。 無理なら頭の上で、体側を伸ばすように左右にゆっくり体を倒します。 肩甲骨が背中の上で動いているのを意識してください。
これらの運動は、心拍数を少し上げ、筋肉を温める効果があります。「体が温まってきたな」と感じる程度で十分です。
プレー中の「関節を守る」ちょっとしたコツ

ウォームアップが完璧でも、プレー中に無理をしては意味がありません。整形外科医としておすすめしたい、ラウンド中の工夫をお伝えします。
カートを有効活用する
「健康のために歩かなければ」と真面目な方ほど、痛みを我慢して歩きがちです。しかし、芝の上や傾斜地を歩くことは、平地よりも膝への負担が大きくなります。膝や腰に不安がある場合は、無理せずカートを利用してください。ボールの近くまで行くときだけ歩く、というメリハリが関節温存につながります。
素振りは7割の力で
スタート前の素振りで、いきなりマン振り(フルスイング)をするのは避けましょう。関節への急激な負荷は禁物です。最初の3ホールくらいまでは、「今日は慣らし運転」くらいの気持ちで、7割程度の力でスイングすることをおすすめします。実はその方が、力が抜けてナイスショットが出ることも多いものです。
プレー後の「静的ストレッチ」とケア

楽しいラウンドが終わった後。ここでのケアが、翌日の痛み、ひいては長くゴルフを続けられるかを左右します。
運動後は筋肉が興奮し、疲労物質が溜まっている状態です。ここでは、時間をかけてゆっくり筋肉を伸ばす「静的ストレッチ」の出番です。
お風呂上がりや帰宅後のストレッチ
お風呂で体を温めた後に行うのがベストです。特にケアしてほしいのが「太ももの前側」と「お尻」です。
太もも前のストレッチ 立った状態で片足の膝を曲げ、足首を手で持ち、かかとをお尻に近づけます。太ももの前が伸びているのを感じながら20秒キープします。(壁に手をついて転倒しないようにしてください)
お尻のストレッチ 椅子に座り、片足をもう片方の膝の上に乗せて「4の字」を作ります。そのままゆっくり上半身を前に倒します。お尻の奥がじわーっと伸びる感覚があれば正解です。これも20秒キープ。
痛みがある場合の「冷やす」か「温める」か
よく質問されるのが「痛いときは冷やすべきですか?温めるべきですか?」という点です。
ラウンド直後に「ズキズキする鋭い痛み」や「熱を持っている感じ」がある場合は、炎症が起きている可能性があります。その場合は、保冷剤や氷嚢で10分〜15分ほど冷やす(アイシング)のが有効です。
一方で、翌日になって「なんとなく重だるい」「固まっている感じがする」という場合は、血行が悪くなっていることが多いので、お風呂などでゆっくり温めてあげるのが良いでしょう。
よくある質問・誤解への回答
ここで、クリニックで患者さんからよくいただく質問にお答えします。
Q. 変形性膝関節症と診断されました。ゴルフはやめたほうがいいですか?
A. 必ずしもやめる必要はありません。適度な運動は、関節周りの筋肉を維持するためにむしろ推奨されます。ただし、痛みが強い時期は安静が必要です。また、スパイクレスのシューズを選んで足元のひっかかりを減らす、傾斜地からのショットは無理をしないなど、膝への負担を減らす工夫をしながら楽しんでいる患者さんはたくさんいらっしゃいます。主治医と相談しながら進めていきましょう。
Q. ヒアルロン酸注射をすると、ゴルフの調子が良くなりますか?
A. ヒアルロン酸注射は、関節の動きを滑らかにし、痛みを和らげる効果が期待できます。「魔法の薬」ではありませんが、膝のキシキシ感が減ることで、恐怖心なくスイングできるようになる方は多いです。ラウンドの数日前に注射をして、コンディションを整える方もいらっしゃいます。
Q. 膝サポーターはつけたほうがいいですか?
A. 不安があるなら着用をおすすめします。サポーターには関節を安定させる効果だけでなく、「膝を意識する」という心理的な効果もあります。また、冷え予防にもなります。ただし、強く締め付けすぎると血行が悪くなるので、ご自身に合ったサイズを選ぶことが大切です。
再生医療という新しい選択肢

近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。
年齢のせいで諦めないでください
「もう歳だから、あちこち痛むのは仕方ない」
そう諦めてしまっていませんか?確かに、関節の軟骨は消耗品であり、年齢とともにすり減っていくものです。しかし、正しいメンテナンスと体の使い方次第で、その進行を遅らせたり、痛みと上手に付き合いながらスポーツを楽しんだりすることは十分に可能です。
最近では、ご自身の血液を使ったPRP療法や、脂肪幹細胞を用いた再生医療など、手術をせずに痛みを改善する新しい選択肢も増えてきました。これらは、従来の治療では効果が不十分だった方にとって、ゴルフ復帰への希望の光となることもあります。
ゴルフは、仲間と笑い合い、自然を感じ、戦略を練る、最高の生涯スポーツです。 痛みを我慢してプレーするのではなく、適切な準備とケアで、いつまでも若々しいスイングを目指しましょう。
もし、「セルフケアだけでは痛みが取れない」「もっと根本的に治したい」とお悩みであれば、一度お近くの整形外科専門医に相談してみてください。あなたのゴルフライフを支える方法は、きっと見つかります。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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