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股関節 手術したくない!股関節の痛みを抑えて歩行を楽にするための専門医の秘訣

階段の上り下りで足の付け根がズキッとする、靴下を履くのがつらくなった、あるいは長く歩くと股関節が重だるい。そんな悩みをお持ちではありませんか。
当院には、多くの患者様が相談に来られますが、共通して口にされる言葉があります。それは、病院で手術が必要と言われたけれど、どうしても手術はしたくない、という切実な願いです。
ある70代の女性の患者様は、大好きな旅行に行くのが生きがいでした。しかし、股関節の痛みがひどくなり、医師から人工関節の手術を勧められました。彼女は、手術が怖い、入院で筋力が落ちるのが心配、そして何より自分の体の一部を金属に変えることに抵抗があるとおっしゃっていました。
気になる症状があるものの、病院へ行くのをためらっているうちに痛みが強くなってしまった。そんな方も多いのではないでしょうか。でも、安心してください。股関節の痛みを抱えながらも、手術をせずに歩行を楽にする方法は確かに存在します。
今回は、整形外科専門医としての知見から、股関節の痛みの正体と、手術を回避して自分らしく歩き続けるためのヒ訣をわかりやすくお伝えします。
この記事の内容
股関節が痛むとき、あなたの体で何が起きているのか
そもそも股関節は、私たちの体の中で最も大きな関節の一つです。骨盤のくぼみに、太ももの骨の先端にある丸い頭がはまり込むような構造をしています。ちょうど、お椀の中にボールが入っているようなイメージですね。
このボールとお椀の間には、軟骨(なんこつ)というクッションがあります。このクッションがあるおかげで、私たちはスムーズに歩いたり、立ち上がったりすることができるのです。
しかし、長年の負担や加齢によって、このクッションが少しずつすり減ってしまうことがあります。これが、多くの方が悩まされる変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)という状態です。
クッションが薄くなると、骨と骨の隙間が狭くなり、周囲の組織が炎症を起こします。これが痛みの主な原因です。最初は動き始めだけが痛かったのが、次第に歩いている間中ずっと痛むようになり、最終的にはじっとしていても疼くようになることもあります。
股関節の痛みは、単に関節だけの問題ではありません。痛みをかばって歩くことで、腰や膝にまで負担がかかり、体全体のバランスが崩れてしまうのが怖いところです。
放置すると、関節がどんどん硬くなり、可動域(かどういき:動かせる範囲)が狭まります。そうなると、爪切りができない、靴下が履けない、階段が一段ずつしか上がれないといった、日常生活の不自由さが深刻になっていきます。

なぜヒアルロン酸注射では根本的な解決にならないのか
整形外科を受診すると、まず提案されることが多いのがヒアルロン酸の関節注射です。膝の痛みで経験された方もいるかもしれませんが、股関節に対しても行われることがあります。
しかし、ここで正直にお話ししなければならないことがあります。股関節に対するヒアルロン酸注射は、残念ながら期待したほどの効果が得られないケースが少なくありません。
ヒアルロン酸は、いわば関節の動きを滑らかにする潤滑油のようなものです。一時的に滑りを良くして、痛みを和らげる効果は期待できます。しかし、それはすり減ってしまった軟骨を再生させるものでも、変形した骨を元に戻すものでもありません。
また、股関節は膝に比べて非常に深い場所にあります。そのため、注射自体が難しく、痛みも伴いやすいという側面があります。
多くの患者様が「注射を打っても、数日経てば元に戻ってしまう」とおっしゃる通り、これはあくまで一時的なしのぎに過ぎないのです。エンジンの故障を直さずに、オイルだけを継ぎ足し続けているような状態と言えるかもしれません。
もちろん、初期の段階で痛みを抑えるきっかけとして使う分には否定しませんが、ヒアルロン酸に頼りきりになって、大切な保存療法の時期を逃してしまうのは非常にもったいないことなのです。
手術を回避するための三つの柱
手術をせずに歩行を楽にするためには、自分自身の体の機能を最大限に引き出すことが重要です。そのための秘訣を三つの柱に分けて紹介します。
1. 股関節を支える筋肉を育てる
股関節にかかる負担を減らす最も有効な方法は、関節の周りにある筋肉、特に中殿筋(ちゅうでんきん)というお尻の横の筋肉を鍛えることです。
この筋肉は、歩くときに骨盤を安定させる役割を持っています。中殿筋が弱くなると、歩くたびに体が左右に揺れ、股関節に大きな負担がかかってしまいます。
簡単なトレーニングを紹介しましょう。横向きに寝て、上の足を伸ばしたままゆっくりと真上に持ち上げます。これだけでお尻の横に刺激がいきます。無理なスクワットは痛みを悪化させますが、こうした関節に負担をかけない形での筋力トレーニングは非常に効果的です。
2. 股関節を優しく緩めるストレッチ
関節が硬くなると、さらに痛みが増すという悪循環に陥ります。そのため、痛みのない範囲で関節を動かし、周りの筋肉をほぐしてあげることが大切です。
特にお腹の奥にある腸腰筋(ちょうようきん)という筋肉が硬くなると、股関節の動きが制限されます。椅子に浅く腰掛け、片方の足を後ろに引いて、足の付け根をじわーっと伸ばすストレッチなどを日常に取り入れてみてください。
ただし、痛みがあるときに無理やり動かすのは禁物です。いた気持ちいいと感じる程度が、筋肉が最もリラックスする範囲です。
3. 日常生活の工夫で負担を減らす
生活習慣のちょっとした変化が、股関節を救います。
まず意識したいのが体重の管理です。歩くとき、股関節には体重の約3倍から4倍の負荷がかかると言われています。つまり、体重が1キロ減るだけで、股関節への負担は3キロから4キロも軽くなるのです。これは関節にとって大きなプレゼントになります。
また、床に座る生活(和式生活)から、椅子やベッドを使う生活(洋式生活)に変えることも重要です。深いお辞儀のような動きや、深くしゃがみ込む動作は股関節に強い圧力をかけます。なるべく高い椅子を使い、立ち上がりの動作を楽にしましょう。
外出時には、杖を活用するのも一つの手です。杖を使うことに抵抗を感じる方もいらっしゃいますが、杖は恥ずかしいものではなく、あなたの歩行を守るための相棒です。一本の杖があるだけで、股関節にかかる重みを分散でき、驚くほど歩くのが楽になりますよ。

最新の選択肢としての再生医療
さて、保存療法を頑張ってもなかなか痛みが引かない、けれど手術はどうしても避けたい。そんな方にとって、近年注目されているのが再生医療という選択肢です。
再生医療とは、自分自身の血液や脂肪から抽出した成分を利用して、体の中にある治る力を引き出す治療法です。例えば、PRP(多血小板血漿:たけっしょうばんけっしょう)療法や、幹細胞(かんさいぼう)治療などがこれにあたります。
これらの治療は、自分の細胞を使うためアレルギーなどの副作用のリスクが非常に低いのが特徴です。また、入院の必要がなく、外来での処置で済むため、日常生活を維持しながら治療を受けることができます。
ヒアルロン酸注射が単なる潤滑油だとしたら、再生医療は関節内の環境を整え、炎症を抑える根本的なアプローチを目指すものです。重度の変形であっても、再生医療によって痛みが軽減し、手術を回避できたり、先延ばしにできたりするケースは多々あります。
手術という大きな決断をする前に、こうした新しい道があることを知っておくだけでも、心の余裕が変わってくるのではないでしょうか。
股関節の痛みに関するよくある質問
患者様からよく受ける質問をいくつかまとめました。
Q1. 痛みがあるときは、安静にして動かないほうがいいのでしょうか?
A1. 激しい痛みがあるときは短期間の安静が必要ですが、ずっと動かないでいるのは逆効果です。 動かさないでいると、関節を支える筋肉がどんどん衰え、関節自体も硬くなってしまいます。結果として、次に動こうとしたときにより強い痛みを感じることになります。 痛みの出ない範囲での散歩や、水中ウォーキング、室内での軽いストレッチなどは、関節の健康を保つためにむしろ積極的に行っていただきたいことです。
Q2. 股関節の痛みは温めるのと冷やすの、どちらがいいですか?
A2. 基本的には温めることをお勧めします。 急な怪我で熱を持っている場合を除き、慢性の股関節痛の多くは血行不良が関係しています。お風呂でゆっくり温まったり、カイロを使ったりして周囲の筋肉を温めると、血流が良くなり痛みが和らぐことが多いです。 筋肉が温まると柔軟性も増すので、お風呂上がりにストレッチをするのが最も効率的です。
Q3. ウォーキングをすれば、股関節の痛みは治りますか?
A3. 歩くことは大切ですが、痛みがある中での長距離ウォーキングは避けてください。 健康のためにと無理をして1万歩歩いたりすると、かえって軟骨の摩耗を早めてしまうことがあります。 まずは家の中や近所を短時間、正しい姿勢で歩くことから始めましょう。もし歩いた後に痛みが強くなるようなら、それは歩きすぎのサインです。量よりも、お尻の筋肉を意識した質の高い歩き方を心がけてください。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

まとめ:年齢のせいにしないで、一歩踏み出しましょう
股関節の痛みが出始めると、多くの方が「もう年だから仕方ない」「いつか歩けなくなるのではないか」と悲観的になってしまいます。しかし、専門医の立場から断言できるのは、今の医学では手術以外にも、痛みをコントロールし、元気に歩き続けるための手段がたくさんあるということです。
手術はあくまで最終手段です。その前にできることは、筋力トレーニング、生活環境の見直し、そして再生医療といった新しい選択肢まで、幅広く存在します。
大切なのは、一人で悩まずに、今の自分の状態に合った正しい対策を知ることです。股関節の痛みが軽くなれば、行きたかった場所へ行けるようになり、孫と遊ぶ時間ももっと楽しくなります。
あなたの人生の質(QOL)を決めるのは、手術の有無ではなく、あなたがどれだけ笑顔で毎日を過ごせるかです。
「もう一度、楽に歩きたい」というその気持ちを大切にしてください。私たちはその想いに寄り添い、全力でサポートいたします。諦める前に、まずは信頼できる専門医に相談してみてくださいね。あなたの毎日が、再び軽やかな足取りで満たされることを心から願っています。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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