歩き始めに「股関節がズキッと痛む…」そんな経験はありませんか？
多くの方が年齢や疲労のせいだと思い込みがちですが、実は「関節唇損傷（かんせつしんそんしょう）」という病気が隠れている場合があります。今回は股関節の痛みの原因や治療法について、整形外科専門医の視点からわかりやすく解説します。

歩き始めに股関節が痛むのはよくあること？

朝起きて一歩目、長時間座った後の立ち上がり、歩き始めに股関節が「ズキッ」と痛むという相談は少なくありません。特に50代以降の方に多く、動き出すと少し楽になるけれど、繰り返し不安を感じることが特徴です。

痛みの出やすい場面と日常生活での困りごと

・立ち上がった瞬間に股関節の奥が痛む
・階段を下りるときに違和感が強い
・長距離を歩くと股関節がこわばる
・あぐらや正座など股関節を大きく曲げる動作がつらい

このような症状は「年齢のせい」と片づけられがちですが、放置すると関節の動きが悪くなり、生活に大きな支障をきたすことがあります。

関節唇損傷とは？

股関節はボール状の骨（大腿骨の骨頭）が受け皿（寛骨臼）にはまり込む構造です。その受け皿の周囲を支えている軟骨の一部が「関節唇（かんせつしん）」です。
この関節唇が傷ついたり裂けたりするのが「関節唇損傷」で、歩き始めや動き出しの痛みの原因になることがあります。

関節唇は衝撃を和らげ、関節の安定性を保つ役割を担っています。そのため損傷があると股関節が不安定になり、引っかかるような痛みや可動域の制限が出やすくなります。

関節唇損傷の主な原因

・加齢によるすり減り
・繰り返す股関節への負担（長距離歩行や運動）
・変形性股関節症の初期症状
・体型や骨の形の特徴（関節のはまり具合が浅い方など）

中高年では「変形性股関節症」の前段階として見つかることも多く、早めの対応が大切です。

どんな治療法や対策がある？

保存療法（手術をしない治療）

・運動療法（ストレッチや筋トレ）
股関節を支える筋肉を鍛えることで、関節にかかる負担を減らします。
・薬物療法
消炎鎮痛薬を一時的に使うことで炎症を抑えます。
・装具療法
杖や股関節サポーターを使うことで日常動作が楽になる場合もあります。

生活習慣の工夫

・体重管理（体重が軽くなるだけで関節への負担は大きく減ります）
・正しい歩き方（小股でトントンと歩かず、ゆっくり大きめの歩幅を意識）
・過度な正座やあぐらを避ける

進行例では

症状が強い場合や変形が進んでいる場合は、関節鏡を使った修復手術や人工関節の手術が検討されます。

再生医療という新しい選択肢

近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP（多血小板血漿）治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。

例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。

ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

よくある質問と回答

Q1. 痛みがあるときは股関節を動かさない方がいいですか？
A. 強い痛みがあるときは安静が大切ですが、完全に動かさないのは逆効果です。無理のない範囲でストレッチや筋力維持を心がけましょう。

Q2. 関節唇損傷は自然に治りますか？
A. 軽度であれば炎症が落ち着いて症状が和らぐこともありますが、裂けた部分が完全に元通りになるわけではありません。再発防止にはリハビリや生活習慣の改善が必要です。

Q3. レントゲンでは異常がないと言われました。
A. 関節唇損傷はレントゲンでは写らず、MRIで診断できることが多いです。症状が続く場合は専門医に相談しましょう。

まとめ ―「年齢のせい」では片づけないで

歩き始めの股関節の痛みは、関節唇損傷や変形性股関節症の初期症状かもしれません。早めに原因を見つけ、運動や生活習慣を工夫すれば改善できる可能性があります。
「もう歳だから仕方ない」と諦めず、適切なケアを取り入れて、快適な生活を取り戻しましょう。