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膝 【膝の裏が痛む】のは歩きすぎ?正座や階段で感じる違和感の正体と対策を専門医が解説

こんにちは。私は関節の再生医療を専門とするクリニックで院長を務めている整形外科医です。日々の診療の中で、多くの患者さんからこのようなご相談をいただきます。
健康のために毎日1時間歩くようにしているけれど、最近膝の裏側が重だるくて。 正座をしようとすると膝の裏が突っ張って、最後まで曲げられないんです。 階段を下りるときに、膝の裏にピリッとした痛みが走る。
膝の痛みというと、多くの方は膝のお皿の周りや内側の痛みを想像されるかもしれません。しかし、実は膝の裏側の痛みや違和感で悩まれている方は非常に多いのです。
膝の裏側は、多くの筋肉や腱、神経、そして血管が複雑に交差する重要な場所です。いわば膝の交通の要所のような場所ですから、そこに痛みが出るということは、膝全体からのSOSサインかもしれません。
この記事では、膝の裏が痛む原因として考えられる病気や、日常生活で気をつけるべきポイント、そして自分でできるケアについて、専門医の視点から分かりやすくお伝えします。年齢のせいだと諦める前に、まずはご自身の膝で何が起きているのかを一緒に探っていきましょう。
この記事の内容
膝の裏が痛むのはどんなとき?よくあるお悩み
膝の裏の痛みは、人によって感じ方や現れる場面が異なります。あなたはどのようなときに違和感を覚えるでしょうか。
まずは、当院を訪れる患者さんからよく聞かれる具体的なお悩みを挙げてみます。
1. 歩きすぎた後や、立ち仕事が続いたとき
たくさん歩いた日の夜や翌朝に、膝の裏がパンパンに張っているような感覚。これは筋肉の疲労だけでなく、関節内部のトラブルが隠れているサインであることが多いです。
2. 正座や深くしゃがみ込む動作
膝を深く曲げようとしたときに、裏側に何かが挟まっているような違和感があり、それ以上曲げられない状態です。無理に曲げようとすると強い痛みを感じることもあります。
3. 階段の上り下り、特に下るとき
階段を下りる動作は、膝に体重の数倍の負荷がかかります。このとき、膝を支える裏側の筋肉や組織に負担がかかり、鋭い痛みを感じることがあります。
4. 朝、動き始めの一歩
布団から起きて歩き出そうとした瞬間、膝の裏が固まっているように感じてスムーズに足が出ない。しばらく動いていると楽になるけれど、動き始めが一番辛いというケースです。
これらの症状は、一時的な筋肉痛であることもあれば、治療が必要な疾患のサインであることもあります。では、具体的にどのような原因が考えられるのでしょうか。

膝の裏が痛む代表的な4つの原因
膝の裏が痛む原因は、一つではありません。医学的な観点から、50代から80代の方に特に多く見られる代表的な原因を4つ解説します。
原因1:ベーカー嚢腫(のうしゅ)
膝の裏が痛む原因として最も特徴的なのが、このベーカー嚢腫です。 膝の関節は、関節液という潤滑油で満たされています。炎症が起きるとこの潤滑油が過剰に分泌され、膝の裏側にある滑液包(かつえきほう)という袋に溜まってしまいます。
例えるなら、膝の裏側に水風船ができてしまったような状態です。 膝を曲げたときにこの水風船が圧迫されるため、正座がしにくくなったり、膝の裏が張ったりするのです。
原因2:変形性膝関節症(へんけいせいしざかんせつしょう)
膝の軟骨がすり減ることで起きる病気です。内側の痛みが有名ですが、進行すると関節全体のバランスが崩れ、膝の裏側を支える組織に負担がかかり、痛みが生じます。 特に、膝が完全に伸びきらなくなると、歩行中に膝の裏側の筋肉(ハムストリングスなど)が常に緊張した状態になり、重だるい痛みや張りを感じやすくなります。
原因3:半月板損傷(はんげつばんそんしょう)の断裂
膝のクッションの役割を果たす半月板。その中でも後節(こうせつ)と呼ばれる後ろ側の部分が傷つくと、膝を深く曲げたときに裏側に刺すような痛みが出ます。 加齢によって半月板が脆くなっていると、特に大きな怪我をしていなくても、日常生活のちょっとした動作で傷ついてしまうことがあるのです。
原因4:筋肉や腱の柔軟性の低下
膝の裏には、太ももの後ろの筋肉(ハムストリングス)や、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋)の付け根が集まっています。 歩きすぎや運動不足によってこれらの筋肉が硬くなると、膝を伸ばしたときにピンと張ったような痛みが出ます。また、膝の裏にある小さな筋肉「膝窩筋(しつかきん)」のトラブルも、膝の裏側の痛みに大きく関わっています。

日常生活でできる対処法と予防のコツ
膝の裏の痛みを和らげ、悪化させないためには、日々のちょっとした工夫が大切です。今日から取り入れられるケアをご紹介します。
無理な正座や深追いを避ける
膝の裏に違和感があるときは、関節内で何かが圧迫されているサインです。無理に正座を続けたり、痛みを我慢して深く曲げたりするのは控えましょう。 外出先では椅子席を選び、自宅でも正座椅子を活用するなど、膝を深く曲げすぎない工夫をしてみてください。
正しい歩き方を意識する
歩きすぎが原因で痛む場合、歩数だけでなく歩き方にも注目しましょう。 膝をピンと伸ばしすぎて着地すると、膝の裏に衝撃がダイレクトに伝わります。少し膝に余裕を持たせ、足裏全体で着地するイメージで歩くと、裏側の筋肉への負担が軽減されます。
温めて血行を良くする
筋肉の張りが原因の場合は、お風呂でゆっくり温めるのが効果的です。血行が良くなると筋肉の緊張がほぐれ、痛みが和らぎます。 ただし、膝が赤く腫れて熱を持っている場合(炎症が強い場合)は、無理に温めず、まずは医師に相談してください。
負担の少ないストレッチを取り入れる
膝の裏を優しく伸ばすストレッチは、予防に効果的です。
- 椅子に浅く腰掛け、片方の足を前に出します。
- 踵を床につけ、つま先を上に向けます。
- 背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと上体を前に倒します。 このとき、膝の裏が「気持ちよく伸びている」と感じる程度で止め、20秒ほどキープしてください。呼吸を止めないのがポイントです。

医療機関での診察と治療の流れ
セルフケアで改善しない場合、早めに整形外科を受診することをお勧めします。病院では以下のような流れで治療が進められます。
診断:痛みの正体を突き止める
まずはレントゲン検査で骨の状態(変形性膝関節症の有無など)を確認します。 ベーカー嚢腫や半月板の状態をより詳しく調べるためには、超音波(エコー)検査やMRI検査が行われます。最近では、エコーを使ってその場で膝の裏の状態を確認できるクリニックも増えています。
保存療法:まずは体への負担が少ない方法から
多くの場合は、手術をしない「保存療法」から始めます。
- 薬物療法:湿布や塗り薬、痛みが強い場合は内服薬で炎症を抑えます。
- 物理療法:電気を当てたり、温熱療法を行ったりして血行を促進します。
- リハビリテーション:理学療法士の指導のもと、硬くなった筋肉をほぐし、膝を支える筋力を鍛えます。
- 関節注射:ベーカー嚢腫で水が溜まっている場合は、注射で水を抜くことで即座に楽になることもあります。また、ヒアルロン酸注射で関節の動きを滑らかにすることもあります。
よくある質問(Q&A)
膝の裏が痛いときは、安静にしていた方がいいですか?
A. 激しい痛みや熱感があるときは数日間の安静が必要ですが、全く動かさないのは逆効果です。 膝を動かさないでいると、周囲の筋肉がさらに硬くなり、関節の動きが悪くなってしまいます。痛みの出ない範囲でストレッチを行ったり、家の中を歩いたりするなど、適度に動かすことが回復への近道です。ただし、自己判断での激しい運動は避け、医師や理学療法士のアドバイスを仰ぎましょう。
市販のサポーターは膝の裏の痛みに効果がありますか?
A. はい、一定の効果が期待できます。 サポーターを装着することで、膝の関節が安定し、周囲の筋肉への負担が軽減されます。ただし、締め付けが強すぎるものは膝の裏を通る血管や神経を圧迫し、かえってしびれや浮腫(むくみ)を引き起こす原因になります。膝の裏側がメッシュ素材になっているものや、サイズが適切なものを選びましょう。
「加齢のせいだから仕方ない」と言われましたが、治らないのでしょうか?
A. 決してそんなことはありません。 確かに年齢とともに軟骨や筋肉の変化は現れますが、それは「痛みと付き合いながら生活の質を上げる工夫ができる」ということでもあります。適切なストレッチや筋力トレーニング、生活習慣の見直しによって、痛みを大幅に改善し、旅行や散歩を楽しめるようになった方は大勢いらっしゃいます。「もう歳だから」と諦める必要はありません。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

まとめ:もう一度、自分の足で楽しく歩くために
膝の裏の痛みは、正座ができない、階段が怖いといった、日々の小さな喜びを奪ってしまうかもしれません。しかし、その原因を正しく理解し、適切な対策を講じることで、多くの場合、症状は改善に向かいます。
もし今、あなたが膝の裏の違和感で悩んでいるのなら、それは体が「少し休んで、ケアしてほしい」と伝えているサインです。
歩きすぎたと感じたら膝をいたわり、硬くなった筋肉を優しくほぐしてあげる。それでも痛みが引かないときは、私たち整形外科専門医を頼ってください。現代の医療には、手術以外にも痛みを和らげ、機能を回復させる選択肢がたくさんあります。
膝の健康を守ることは、あなたの人生の質(QOL)を守ること。 いつまでも自分の足で、行きたい場所へ行ける喜びを持ち続けられるよう、今日から一歩踏み出してみませんか。私たちはその一歩を、全力でサポートいたします。
膝の痛みについてのご相談や、より詳しい情報をお求めの場合は、いつでも当院へお気軽にお問い合わせください。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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