コラム COLUMN
スポーツ外傷膝 山登りを諦めたくない高齢者必見!変形性膝関節症の注意点と膝を守る登り方を専門医が解説

澄み切った空気、山頂から見渡す絶景、そして登り切ったときの達成感。山登りは心身をリフレッシュさせてくれる素晴らしい趣味ですよね。当院に来られる50代から80代の患者さんの中にも、「山登りが生きがいです」とおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。
しかし、その一方でこんな切実な悩みもよく伺います。
「以前は楽に登れた低山なのに、最近は下山で膝が笑うし、帰宅してから膝がパンパンに腫れてしまう」 「変形性膝関節症と診断されてから、もう大好きな山には行けないのではないかと不安でたまらない」
気になる症状ですよね。痛みを我慢して歩き続けるのは辛いものですし、周囲に迷惑をかけるかもしれないと思うと、つい足が遠のいてしまうお気持ち、本当によくわかります。
でも、安心してください。変形性膝関節症になったからといって、即座に「山登りを引退」しなければならないわけではありません。正しい医学知識を持ち、膝への負担を減らすコツを身につければ、長く安全に山を楽しむことは十分に可能です。
今回は、関節の再生医療を専門とする整形外科医の視点から、高齢者の方が変形性膝関節症と上手に向き合いながら山登りを続けるための注意点と対策について、詳しくお話ししていきます。
この記事の内容
なぜ山登りで膝が痛むのか?その背景と症状
山登り、特に「下り」の際に膝が痛むというのは、変形性膝関節症の典型的な症状の一つです。なぜ平地を歩くときよりも、山道では痛みが強く出るのでしょうか。
下山時にかかる膝への負担は想像以上
実は、山を下るときに膝にかかる衝撃は、平地を歩くときの数倍、体重の5倍から7倍に達することもあります。例えば、体重60kgの人なら、一歩ごとに300kg以上の負荷が膝関節にかかっている計算になります。
これを数千歩、数万歩と繰り返すわけですから、膝のクッションが弱っている方にとって、山登りが過酷な環境であることは間違いありません。
どんなときに、どんな痛みが出やすい?
変形性膝関節症の初期から中期にかけては、以下のような場面で困ることが多いようです。
- 登り始めの動き出しに、膝がこわばるような違和感がある
- 段差を降りるとき、膝のお皿の周辺や内側がズキッと痛む
- 山行の翌日、膝に熱を持ったり、水が溜まったような重だるさがある
- 正座ができなくなったり、膝が完全に伸びきらなくなったりする
これらの症状は、膝の関節内で何らかのトラブルが起きているサインです。特に「水が溜まる」のは、関節内の炎症を抑えようとして体が潤滑油を出しすぎている状態ですので、無理は禁物です。

変形性膝関節症の正体:膝の中で何が起きている?
ここで、少しだけ医学的なお話をしましょう。難しい用語は抜きにして、イメージで捉えてみてください。
膝の関節は、太ももの骨(大腿骨)とスネの骨(脛骨)が組み合わさってできています。その骨の表面を覆っているのが、ツルツルとした軟骨です。この軟骨は、いわば「高性能なクッション」や「滑らかなベアリング」のような役割を果たしています。
クッションがすり減り、クリーンな環境が崩れる
変形性膝関節症とは、長年の使用や筋力の低下、加齢によって、この軟骨クッションが少しずつすり減っていく病気です。
クッションが薄くなると、骨と骨の隙間が狭くなり、周囲の組織が刺激されて炎症が起きます。すると、関節の中には「炎症のゴミ」が溜まり、それがさらに痛みを引き起こすという悪循環に陥ります。
高齢者の方に多いのは、長年の歩き方の癖や、膝を支える筋肉の衰えによって、膝の内側にばかり負担がかかり、内側の軟骨が集中的に減ってしまうケースです。その結果、脚の形が「O脚(オーキャク)」に変化していくことも珍しくありません。
病院での一般的な治療:ヒアルロン酸注射の考え方
整形外科を受診すると、多くの場合で勧められるのが「ヒアルロン酸の関節注射」です。これを受けている方も多いのではないでしょうか。
確かに、ヒアルロン酸は関節の滑りを一時的に良くする潤滑油の役割を果たします。打った直後は「楽になった気がする」と感じるかもしれません。しかし、これだけで変形性膝関節症が根本的に治るわけではありません。
厳しい言い方かもしれませんが、すり減ってしまった軟骨そのものを再生させる力は、ヒアルロン酸にはないのです。いわば、錆びてしまった機械に油を差しているようなもので、部品そのものが傷んでいれば、またすぐに油が切れて痛みが出てしまいます。
何度も注射を繰り返しているのに、山登りのたびに痛みがぶり返すという方は、単なる潤滑油の補給以上の対策が必要な段階に来ているのかもしれません。
一生自分の足で歩くために!具体的な対策と予防法
山登りを続けるためには、膝への負担を最小限にし、膝を支える力を最大化することが重要です。今日からでも取り組める方法をご紹介します。
山登り中の工夫:ギアと歩き方で膝を守る
まず見直していただきたいのが、山歩きのテクニックと装備です。
- トレッキングポール(杖)をフル活用する 最も効果的なのは、2本のトレッキングポールを使うことです。これにより、膝にかかる体重の一部を腕に分散させることができます。特に下りでは、ポールを先に突くことで膝への衝撃を劇的に減らせます。いわば「四本足」で歩くイメージですね。
- 歩幅を狭くし、ゆっくり歩く 大きな段差をドスンと降りるのが、膝にとって一番の毒です。歩幅をいつもの半分にするくらい細かく足を出し、膝を柔らかく使って着地しましょう。
- サポーターやインソールの活用 膝のぐらつきを抑えるサポーターや、O脚を補正するインソール(靴の中敷き)を使うことで、膝の特定の部分に負担が集中するのを防げます。
室内でできる膝の貯金:筋力トレーニング
膝を守る最大の味方は、自分の筋肉です。特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)は、膝のクッション機能を助ける重要な役割を担っています。
おすすめは、椅子に座ってできる「足上げ運動」です。 片方の足をゆっくり伸ばして、床と水平のところで5秒間キープ。これを左右10回ずつ、朝晩行うだけでも、膝の安定感は変わってきます。スクワットも有効ですが、深く曲げすぎると逆に膝を痛めるので、浅めの「ハーフスクワット」から始めましょう。
根本的な改善を求めて:最新の選択肢
もし、保存療法や生活習慣の改善だけでは山登りが辛いという場合、近年では再生医療という選択肢も広がっています。自分自身の血液の成分(PRP)や細胞を用いて、関節内の環境を整え、組織の修復を促す治療法です。
これまでの「痛みをごまかす治療」から、「関節の質を改善する治療」へと進化しています。従来の治療で限界を感じている方は、こうした新しいアプローチを検討してみるのも一つの道です。

よくある質問・誤解への回答
山登りと膝の痛みについて、患者さんからよくいただく質問にお答えします。
Q1. 膝が痛いときは、できるだけ動かさずに安静にしていたほうがいいですか?
A1. 激しい炎症が起きて熱を持っているときは安静が必要ですが、基本的には「適度に動かすこと」が推奨されます。
安静にしすぎると、膝を支える筋肉がみるみる落ちてしまい、関節が硬くなってしまいます。すると、次に動いたときにさらに痛みやすくなるという負のスパイラルに陥ります。痛みのない範囲での散歩やストレッチを継続することが、結果的に山登りへの近道になります。
Q2. 膝にサポーターをずっとつけていると、筋肉が弱くなってしまいませんか?
A2. 山登りなどの負荷が高いときだけ使用するのであれば、筋肉が衰える心配はほとんどありません。
むしろ、痛みで歩き方が不自然になったり、運動を避けてしまったりするほうが筋肉への悪影響が大きいです。山に行くときはしっかりした機能性サポーターで保護し、日常生活では外してトレーニングを行う、というように使い分けるのがベストです。
Q3. 変形性膝関節症と診断されたら、もう一生、標高の高い山には登れませんか?
A3. 決してそんなことはありません。変形の程度にもよりますが、準備次第で復帰された方は大勢います。
ただし、いきなりハードな山に挑戦するのではなく、まずは整備された遊歩道から始め、徐々に傾斜を増やしていく「リハビリ登山」からスタートしましょう。自分の膝の状態を正しく把握し、医師のアドバイスを受けながらステップアップしていくことが大切です。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

まとめ:「年齢のせい」と諦めないで。改善する方法は必ずあります
「もう歳だから膝が痛いのは仕方ない」「山登りは引退かな」と諦めてしまうのは、とてももったいないことです。
膝の痛みには、必ず理由があります。そして、医学が日々進歩している現代において、その理由を取り除いたり、痛みをコントロールしたりする方法は、昔よりもずっと増えています。
膝を労る歩き方を覚え、少しずつ筋肉を貯金し、必要に応じて専門的な治療を組み合わせる。そうすることで、5年後、10年後も、自分の足で山の頂に立ち、素晴らしい景色を眺めることは決して夢ではありません。
もし今、膝の不安で山への一歩をためらっているのなら、一度専門医に相談してみてください。あなたの「一生、山を楽しみたい」という気持ちに寄り添い、全力でサポートしてくれる医師が必ずいます。
大好きな山を、これからも笑顔で歩き続けられるよう、今日から新しい一歩を踏み出してみませんか。私たちは、あなたの「挑戦したい」という気持ちを、医学の力で応援しています。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
各種ご相談やご予約はこちら
- ひざの痛みに関する相談
- セカンドオピニオンの相談
- 再生医療に関する相談
- MRI検査のご予約


