コラム COLUMN
スポーツ外傷膝 膝に負担をかけない滑り方のコツと痛みの対策を整形外科医が解説

冬が近づき、真っ白な雪山を思い浮かべると心が躍る。そんなスキー愛好家の方は多いはずです。しかし、それと同時に「最近、滑った後に膝が痛むようになった」「リフトの乗り降りで膝がカクカクする」といった不安を抱えてはいませんか。
私のクリニックには、50代から80代の熱心なスキーヤーが多く来院されます。先日お越しになった70代の男性は、「膝が痛くて、もうスキーは引退かなと思っているんです。でも、あの雪の上の爽快感が忘れられなくて……」と寂しそうに話してくださいました。
結論から申し上げます。膝の痛みがあるからといって、すぐにスキーを諦める必要はありません。大切なのは、今の自分の膝の状態を正しく知り、膝に負担をかけない滑り方を身につけること。そして、適切なケアを行うことです。
この記事では、整形外科専門医の視点から、膝を守りながら長くスキーを楽しむための秘訣をお伝えします。
この記事の内容
なぜスキーで膝が痛くなるのか?その背景と原因
スキーは、日常生活では行わないような特殊な動きを膝に強いるスポーツです。特に50代以降の方は、長年の使用によって膝のクッションである「軟骨(なんこつ)」や「半月板(はんげつばん)」が少しずつすり減っている状態(変形性膝関節症など)にあることが少なくありません。
膝への負担がかかる3つの場面
- ターンの時のひねり:スキー板を操作する際、足元を内側や外側にひねる動作は、膝の関節に大きな回転の負荷をかけます。
- 振動と衝撃:荒れた雪面やコブを滑る際、地面からの突き上げを膝がすべて吸収しようとすると、関節内部に微細なダメージが蓄積します。
- 急激な踏ん張り:転倒しそうになった時や急ブレーキをかけた時、膝の周りの筋肉が急激に収縮し、関節を強く圧迫します。
膝の関節は、大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)と脛骨(けいこつ:すねの骨)が組み合わさってできています。その間にある軟骨が、潤滑油を含んだスポンジのような役割をして衝撃を逃がしていますが、加齢とともにその弾力は失われがちです。無理な滑り方を続けると、このスポンジが悲鳴を上げ、炎症(えんしょう)を起こして痛みが出るのです。

ヒアルロン酸注射だけでは解決しない?治療の考え方
膝が痛むと、多くの整形外科では「ヒアルロン酸の注射」を勧められます。皆さんも経験があるかもしれません。
もちろん、ヒアルロン酸には関節の動きを滑らかにする効果が一定程度あります。しかし、それは例えるなら、古くなった機械に油を注しているようなものです。油をさせば一時的に音は静まり、動きも良くなりますが、機械そのものの摩耗や部品のゆがみが治ったわけではありません。
毎週のように病院へ通い、ヒアルロン酸を打ち続けているのに、滑るたびにまた痛くなる。そんな方は、対症療法(その場の痛みを抑えるだけの処置)だけでは限界が来ている可能性があります。膝の構造そのものを守り、負担を減らす根本的なアプローチが必要です。
最近では、ご自身の血液や細胞の力を利用して、組織の修復を促す「再生医療」という選択肢も出てきています。従来の治療でなかなか改善しない場合や、手術は避けたいけれどアクティブに活動したいという方には、こうした新しい医療も一助となるでしょう。
整形外科医が教える:膝に負担をかけない滑り方の5つのポイント
それでは、具体的にどのような滑り方を意識すれば、膝へのダメージを最小限に抑えられるのでしょうか。プロの技術を目指すのではなく、健康寿命を延ばすための「サスティナブル(持続可能)なスキー」のコツを解説します。
1. 「ニュートラルポジション」で骨格を支えにする
膝だけで体重を支えようとすると、すぐに限界が来ます。大切なのは、足首・膝・股関節(こかんせつ)の3つの関節を軽く曲げた「ニュートラルポジション(自然な立ち姿勢)」を作ることです。 特定の筋肉に頼るのではなく、骨格全体で重力を受け止めるイメージを持ちましょう。これだけで、膝への局所的な負担は劇的に減ります。
2. 膝ではなく「股関節」を主役に使う
膝が痛くなる方の多くは、膝を曲げ伸ばしすることでターンしようとしています。しかし、膝は本来「曲げる・伸ばす」動きは得意ですが、「ひねる」動きには非常に弱い構造をしています。 ターンのきっかけは、膝ではなく股関節から作りましょう。太ももの付け根を意識して動かすことで、膝に無理な回転力がかかるのを防ぐことができます。
3. 足首の柔軟性を活用する
スキーブーツの中で足首をしっかり使えていますか?ブーツの中で足指を少し動かせるくらいの余裕を持ち、足首を少し前に倒す(脛をブーツのタンに当てる)意識を持つと、雪面からの振動が足首で吸収され、膝に伝わる衝撃が和らぎます。
4. 外脚(そとあし)一本に頼りすぎない
若い頃のように、外側の足に全ての体重を乗せてグッと踏ん張る滑り方は、膝にとっては「高負荷トレーニング」をしているようなものです。 左右の足の荷重を「外側6:内側4」や「外側5:内側5」くらいに分散させてみてください。両方の足でバランスよく雪面を捉えることで、膝への負担が半分になります。
5. 雪質と斜面を選ぶ勇気を持つ
朝一番の硬いアイスバーンや、深いコブ斜面は、膝にとっては過酷な環境です。 「今日は雪が硬いから、少し休憩を多めにしよう」「フラットな緩斜面で綺麗なターンを楽しもう」といった具合に、自分の膝の状態と相談しながらフィールドを選ぶ。これこそが、大人のスキーヤーの嗜みです。

日常生活でできる膝のケアと準備
スキーに行く日だけ頑張っても、普段の膝の状態が悪ければ痛みは出やすくなります。シーズン中も、オフシーズンも、以下のポイントを意識してみましょう。
ストレッチで「柔軟な膝」を作る
膝の痛みの原因の多くは、膝の周りの筋肉(特に太ももの前の筋肉)が硬くなることにあります。筋肉が硬いと、関節の隙間が狭くなり、軟骨同士がぶつかりやすくなります。 お風呂上がりなどに、太ももの前、裏、そしてふくらはぎをゆっくりと伸ばす習慣をつけましょう。
筋力維持は「スクワット」よりも「お散歩」から
膝を鍛えようとして、無理なスクワットをしていませんか?間違ったフォームのスクワットは、かえって膝を壊します。 50代以降の方におすすめなのは、正しい姿勢でのウォーキングや、水中での歩行トレーニングです。膝への衝撃を避けながら、関節を支える筋力を養うことができます。
道具の力を借りる
膝専用のサポーターや、衝撃吸収性の高いインソールを活用するのも非常に有効です。また、最近のスキー板は軽量で操作しやすいものが増えています。昔の重い板を使い続けている方は、最新の道具に変えるだけで、膝への負担が驚くほど軽くなることがあります。

よくある質問・誤解への回答
ここでは、診察室でよく患者さんから聞かれる質問にお答えします。
Q:膝に痛みがあるときは、全く動かさないほうがいいのでしょうか?
A:激しい炎症(熱を持って腫れている状態)がある時は安静が必要ですが、そうでない場合は、全く動かさないのは逆効果です。 関節を動かさないと、関節液という栄養分が循環せず、さらに軟骨が弱くなってしまいます。また、周りの筋肉も衰えて、関節を支えられなくなります。痛みの出ない範囲で、優しく動かし続けることが大切です。
Q:サポーターをつけると筋肉が衰えると聞きましたが、本当ですか?
A:それはよくある誤解です。 サポーターは、関節のグラつきを抑えて正しい動きをサポートしてくれるものです。スキーのような高負荷がかかる場面では、積極的に使用することをお勧めします。サポーターをつけることで安心して動けるようになり、結果的に活動量が増えて筋力が維持されるというメリットの方が大きいです。
Q:変形性膝関節症と診断されましたが、もうスキーは引退ですか?
A:診断名は、あくまで「現状の状態」を示すものです。 軟骨がすり減っていても、痛みがなく元気に滑っている方はたくさんいらっしゃいます。適切な滑り方の修正と、必要に応じた治療(再生医療などを含む)を組み合わせれば、多くの方がスキーを継続されています。諦める前に、まずはスポーツ医学に詳しい専門医に相談してみてください。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

まとめ:年齢を理由に諦めないでください
スキーは、大自然の中で心身ともにリフレッシュできる素晴らしいスポーツです。50代、60代、さらには80代になっても、その魅力を味わい続けることは十分に可能です。
膝の痛みは、体からの「もう少し労わってほしい」というメッセージかもしれません。その声に耳を傾け、滑り方を工夫したり、適切なケアを取り入れたりすることで、膝との上手な付き合い方が見えてきます。
「もう歳だから」「痛いのは当たり前」と諦めてしまうのは、とてももったいないことです。現代の医療は進歩していますし、滑り方のコツ一つで膝の運命は変わります。
今年の冬も、そして来年の冬も、あなたが白いゲレンデで笑顔で風を切っていることを心から願っています。もし不安なことがあれば、いつでも私たちのような専門医を頼ってくださいね。一緒に、あなたの膝を守りながら、大好きなスキーを続けていきましょう。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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