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膝 階段が辛い膝の痛みは放置厳禁!専門医が教える3つの理由と改善への近道

「最近、駅の階段を避けてエスカレーターを探すようになった」 「家の2階に上がるのが億劫で、つい1階だけで生活を完結させてしまう」 「階段を下りる時に、膝がガクッとしそうで怖い」
私のクリニックには、このような悩みを持つ患者さんが毎日たくさんいらっしゃいます。 50代を過ぎた頃から「なんとなく膝が重い」と感じ始め、60代、70代と進むにつれて、階段が明確な苦痛に変わっていく。これは、決してあなた一人だけの悩みではありません。
しかし、診察室で多くの方が口にするのが「歳のせいだから仕方ないと思って、我慢していました」という言葉です。 実は、この我慢こそが一番の落とし穴なのです。階段で感じる膝の痛みは、体が出している大切なサイン。それを放置してしまうと、気づいた時には大好きな旅行に行けなくなったり、日常生活に支障が出たりすることもあります。
今回は、関節の専門医としての知見から、なぜ階段での膝の痛みを放置してはいけないのか、その医学的な理由と、痛みを和らげて元気な足腰を取り戻すための具体的な方法についてお話しします。
この記事の内容
なぜ階段で膝が痛むのか?その仕組みを知りましょう
そもそも、なぜ平地を歩く時は平気なのに、階段になると痛みが出るのでしょうか。 それは、階段の上り下りでは、膝にかかる負担が平地を歩く時の数倍にも跳ね上がるからです。
一般的に、平地を歩いている時に膝にかかる負担は体重の約2倍から3倍と言われています。ところが、階段の上りでは約3倍から4倍、さらに負担が大きい階段の下りでは体重の約5倍から7倍もの負荷が膝関節に集中します。
膝関節の中では、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)が接しており、その表面を軟骨(なんこつ)という滑らかな組織が覆っています。この軟骨がいわゆるクッションの役割を果たし、スムーズな動きを支えているのです。 しかし、加齢や筋力低下によってこのクッションがすり減ってくると、階段の上り下りのような大きな負荷に耐えきれなくなり、炎症が起きて痛みが生じます。
これが、多くの膝痛の正体である「変形性膝関節症(へんけいせいしざかんせつしょう)」の初期症状であることが多いのです。

階段の膝の痛みを放置してはいけない3つの理由
ここからは、なぜ「少しの痛みだから」と放置してはいけないのか、3つの大きな理由を解説します。
1. 膝の軟骨は一度すり減ると元には戻らないから
これが最も重要な理由です。膝の関節を覆っている軟骨には、血管や神経がほとんど通っていません。そのため、一度すり減ったり傷ついたりしてしまうと、自分の力で再生(元の状態に戻ること)することが非常に難しい組織なのです。
初期の段階であれば、リハビリや生活習慣の改善で進行を遅らせることができますが、放置して軟骨が完全になくなってしまい、骨と骨が直接ぶつかり合うようになると、激しい痛みとともに膝の形が変形していきます。 「早めに手を打つこと」が、将来自分の足で歩き続けるための最大の鍵となります。
2. 痛みによる活動低下が「負のスパイラル」を生むから
膝が痛いと、どうしても動くのが嫌になりますよね。階段を避け、歩く距離を減らし、家の中でじっと過ごす時間が増えてしまいます。 すると、膝を支えるための筋肉(特に太ももの大腿四頭筋)がどんどん衰えていきます。
筋肉が弱くなると、本来筋肉が吸収してくれるはずの衝撃が、ダイレクトに膝の関節へ伝わるようになります。その結果、さらに関節の炎症が悪化し、より強い痛みが出るようになる。 「痛いから動かない」→「筋肉が落ちる」→「さらに痛くなる」という、恐ろしい負のスパイラルに陥ってしまうのです。この連鎖をどこかで断ち切る必要があります。
3. 全身の健康寿命や心の元気に直結するから
膝の痛みを放置して歩行が困難になると、単に「足が痛い」という問題だけでは済まなくなります。 外出が減ることで社会的な交流が断たれ、気分が落ち込みやすくなったり、認知機能の低下を招いたりすることがあります。また、運動不足による肥満は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を悪化させ、心臓や血管への負担も増やしてしまいます。
膝を守ることは、あなたの人生の質(QOL)を守ることであり、健康寿命を延ばすことに直結しているのです。

階段の痛みを改善するために今日からできること
では、具体的にどのような対策をとれば良いのでしょうか。専門医の立場から、ご家庭でも取り組める効果的な方法をいくつかご紹介します。
減量による負担軽減
膝にとって、1キロの体重増加は階段下りで5キロから7キロの負担増に相当します。逆に言えば、わずか1キロ痩せるだけでも、膝への負担は劇的に軽くなります。 極端なダイエットは必要ありません。間食を少し控えたり、夕飯の時間を早めたりするなどの工夫から始めてみましょう。
太ももの筋肉を鍛えるストレッチ
膝のクッション機能を助けるのは、太ももの前側の筋肉「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」です。 椅子に座ったまま、片足をゆっくり水平に持ち上げ、つま先を上に向けて5秒間キープする。これを左右交互に10回ずつ繰り返すだけでも、膝を支える力が養われます。 ポイントは、痛みのない範囲で毎日コツコツ続けることです。
足に合った靴選びとインソール
底が薄すぎる靴や、脱げやすいサンダルは、膝への衝撃を強めてしまいます。 クッション性の高いウォーキングシューズを選び、必要に応じて土踏まずをサポートするインソール(靴の中敷き)を使用することで、膝への衝撃を和らげることができます。
階段の上り下りの工夫
階段を使う際は、以下のコツを意識してみてください。 ・上る時:痛くない方の足から一段ずつ上がる。 ・下りる時:痛い方の足から一段ずつ下りる。 ・手すりを必ず使い、腕の力も借りて体重を分散させる。 「上りは良い方、下りは悪い方」と覚えておくと、膝への優しさが変わります。

病院での治療にはどのような選択肢がある?
自分での対策には限界を感じた場合、整形外科を受診することをお勧めします。現在の医療では、手術以外にも多くの選択肢があります。
まずは「保存療法(ほぞんりょうほう)」が基本です。 これには、炎症を抑える飲み薬や塗り薬、膝の動きを滑らかにするヒアルロン酸の関節注射(かんせつちゅうしゃ)、専門の理学療法士によるリハビリテーションなどが含まれます。
また、膝のぐらつきを抑えるための「装具(そうぐ)」、いわゆるサポーターを作成することもあります。 医療用のサポーターは、市販のものよりも固定力が高く、一人ひとりの足の形に合わせて調整するため、装着するだけで「歩くのが楽になった」と喜ばれる患者さんも多いです。
大切なのは、「手術しかない」と思い込まないことです。初期や中期の段階であれば、適切な保存療法を組み合わせることで、手術を回避したり、先延ばしにしたりすることは十分に可能です。
よくある質問・誤解への回答
膝の悩みについて、患者さんからよくいただく質問にお答えします。
痛みがある時は、安静にして動かさない方がいいですか?
急に激しい痛みが出た直後や、膝が赤く腫れて熱を持っている時は安静が必要です。しかし、慢性的な重だるい痛みの場合、全く動かさないのは逆効果です。 先ほどお話ししたように、動かさないことで筋肉が衰え、関節が硬くなってしまいます。医師の指導のもとで、痛みの出ない範囲でのウォーキングやストレッチを行うことが、回復への近道となります。
膝に水が溜まったら、抜くと癖になりますか?
これは非常によくある誤解ですが、水を抜くから癖になるわけではありません。 膝に水(関節液)が溜まるのは、関節内で炎症が起きているからです。火事で言えば、火が出ているから消火活動(水が溜まる)が行われている状態です。 原因である炎症が治まっていないために、また水が溜まるのであって、溜まった水を抜くことで痛みが和らぎ、炎症の診断にも役立ちます。
膝の痛みは「歳のせい」だから諦めるしかないでしょうか?
年齢とともに軟骨の変化は誰にでも起こりますが、痛みの強さは人それぞれです。同じような年齢の方でも、元気に山登りを楽しんでいる方もいれば、歩行が困難な方もいます。 その差は、適切なケアをしているかどうか。つまり、「歳のせい」ではなく「適切な対策ができていないせい」である可能性が高いのです。医学的なアプローチで、今の痛みは必ず軽減させることができます。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

終わりに:一歩踏み出す勇気が、将来の歩みを支えます
階段の上り下りで感じる膝の痛み。それは、あなたの膝が「少し休ませてほしい」「助けてほしい」と言っているサインです。 そのサインを無視せず、正面から向き合ってみませんか?
「もう若くないから」と諦めて、やりたいことを制限してしまうのは本当にもったいないことです。現在の医療は進歩しており、あなたのライフスタイルに合わせた最適な治療法がきっと見つかります。
まずは、お近くの整形外科専門医に相談してみてください。 専門家と一緒に膝の状態を確認し、適切な対策を始めることで、また軽やかに階段を上れる日がきっと来ます。 あなたの「歩きたい」という気持ちを、私たちは全力でサポートします。
一度きりの人生、ご自身の足でどこまでも歩いていける喜びを、ぜひ取り戻しましょう。
次は、ご自宅でできる簡単な膝の体操を、一緒に確認してみませんか?
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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