コラム COLUMN
膝 膝を曲げると痛いのはなぜ?日常生活で気をつけるべき動作と改善運動を整形外科専門医が解説

「昔は当たり前にできていた正座が、いつの間にか苦痛になった」 「階段を降りる時に膝がズキッとして、手すりなしでは怖くて歩けない」 「お風呂の椅子に座る時や、車に乗り込む時に膝が曲がらず、つい顔をしかめてしまう」
私のクリニックには、日々このようなお悩みを抱えた患者さんがたくさん来院されます。 50代を過ぎた頃から少しずつ違和感が始まり、70代、80代になると「膝を曲げる」という何気ない動作が、日常生活の中で大きなストレスになってしまう。これは決してあなただけのことではありません。
膝が痛むと、どうしても外出が億劫になり、家の中に閉じこもりがちになりますよね。するとさらに脚の力が弱くなり、また膝の痛みが強くなる……という悪循環に陥ってしまうことも少なくありません。
しかし、整形外科専門医としてこれだけは最初にお伝えしたいのです。 膝を曲げると痛いという症状には、必ず理由があります。そして、その理由を正しく理解し、毎日のちょっとした動作や運動を見直すことで、痛みとうまく付き合い、改善していく道は必ず見つかります。
この記事では、膝の痛みに悩む皆さんが今日から実践できる知識と工夫を、専門用語を控えめにして分かりやすくお伝えしていきます。
この記事の内容
なぜ「膝を曲げる」と痛みが走るのでしょうか?
私たちは普段、無意識に膝を曲げ伸ばししていますが、実は膝を深く曲げる時には、膝の関節に非常に大きな負担がかかっています。
膝の中は「精密なクッション」で守られています
膝の関節は、太ももの骨(大腿骨)と、スネの骨(脛骨)、そして膝のお皿(膝蓋骨)が組み合わさってできています。これらの骨の表面は、滑らかな「軟骨(なんこつ)」というクッションで覆われており、これが衝撃を吸収し、滑らかな動きを助けています。
しかし、長年の使用や加齢によって、このクッションが少しずつすり減ったり、弾力を失ったりしてきます。これが、多くの方が悩まれる「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」の始まりです。
曲げる動作は「圧力」を高めます
膝を曲げるという動作は、このすり減ったクッション同士を強く押し当てるような動きになります。特に深く曲げれば曲げるほど、関節内の圧力は高まります。
例えば、平地を歩いている時の膝への負担が体重の約2倍から3倍だとすると、階段の上り下りでは約3倍から5倍、そして「しゃがみ込む」動作や「正座」では体重の約7倍から10倍もの負荷が膝にかかると言われています。
クッションが薄くなっているところに、大きな圧力がかかる。これが、膝を曲げた瞬間に「ズキッ」とくる痛みの正体なのです。

どんな場面で困ることが多いですか?
膝を曲げると痛いという症状は、日常生活のあらゆる場面で顔を出します。当てはまるものはありますか?
- 階段の上り下り 特に「降りる時」の方が痛むという方が多いです。足を一段下に踏み出す際、膝が深く曲がり、体重がグッとかかるため、負担が最大になります。
- 椅子やトイレの立ち座り 座る瞬間に膝が曲がりきるところで痛みが出たり、立ち上がる瞬間に膝に力が入らなかったりします。
- 和室での生活 畳に座る、立ち上がる、あるいは正座をする。これらの動作は現代の日本人にとって膝への負担が最も大きい動作と言っても過言ではありません。
- 自転車のペダルをこぐ時 膝を深く曲げてペダルを押し込む時に、お皿の周辺に重だるい痛みを感じることがあります。
こうした場面で痛みを感じるようになると、「これ以上悪くなったらどうしよう」という不安が募りますよね。でも、安心してください。大切なのは「痛みをゼロにすること」だけではなく、「膝に負担をかけないコツ」を身につけることです。
整形外科で行われる「保存療法」とは
病院に行くと、すぐに手術を勧められるのでは?と怖がっている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、整形外科での治療の基本は、まずは手術をしない「保存療法(ほぞんりょうほう)」です。
関節を滑らかにする「関節注射」
膝の動きを助けるために、ヒアルロン酸という成分を関節の中に直接注入することがあります。これは、膝の中の「潤滑油(じゅんかつゆ)」を補うようなイメージです。滑りが良くなることで、曲げた時の摩擦が減り、痛みが和らぎます。
痛みを抑え、炎症を鎮める
湿布や塗り薬、あるいは飲み薬を使って、膝の中で起きている「火事(炎症)」を鎮めます。痛みが強すぎて動けないと、どんどん筋力が落ちてしまうため、お薬の力を借りて活動を維持することも立派な治療の一つです。
専門スタッフによるリハビリテーション
理学療法士などの専門家が、膝の状態に合わせたストレッチや筋力トレーニングを指導します。また、歩き方のクセを修正したり、必要に応じて膝を支える「装具(サポーター)」や、足の裏から支える「インソール(靴の中敷き)」を作成したりすることもあります。
日常生活で気をつけるべき動作のヒント
膝を曲げると痛いという方は、まず「膝をいじめない生活」を意識してみましょう。
床の生活から「椅子の生活」へ
可能であれば、畳に座る生活から、椅子とテーブルの生活に切り替えるのが理想的です。特に立ち上がる時の負担を減らすため、少し高めの椅子を選ぶのがポイントです。
階段の使い工夫
階段を上る時は、痛くない方の足から先に出します。逆に降りる時は、痛い方の足から先に出します。 「上りはいい足、下りは悪い足」と覚えておくと、膝への衝撃を最小限に抑えることができます。もちろん、手すりがある場合は必ず使いましょう。
重い荷物は分散させる
買い物袋などを片手だけで持つと、体のバランスが崩れて膝に偏った負担がかかります。リュックサックを利用するか、両手にバランスよく持つように心がけましょう。

自宅でできる「改善運動」:膝を支える力を育てる
膝を曲げると痛いからといって、じっとしているのは逆効果です。膝を支える天然のサポーターである「太ももの筋肉(だいたいしとうきん)」を鍛えることで、関節の負担を減らすことができます。
1. 足上げ運動(パテラ・セッティング)
まずは膝への負担が少ない、寝たまま、あるいは座ったままできる運動から始めましょう。
- 椅子に深く座ります
- 片方の膝をまっすぐ伸ばし、足首を手前に起こします
- そのまま5秒間キープします
- ゆっくり下ろします
これを左右10回ずつ、朝晩に行うだけでも、膝を支える筋肉がしっかりしてきます。
2. 膝裏のばしストレッチ
膝がしっかり伸びないと、曲げる時の可動域も狭くなり、痛みが強くなることがあります。
- 椅子に浅く腰掛け、片方の足を前に出します
- 膝を軽く手で押さえながら、膝の裏が気持ちよく伸びるのを感じます
- 20秒ほどゆっくり呼吸を続けながらキープします
お風呂上がりなどの、体が温まっている時に行うのが特にお勧めです。

よくある質問・誤解への回答
患者さんからよく受ける質問に、専門医の立場からお答えします。
膝が痛いときは、ウォーキングなどの運動は控えたほうがいいですか?
痛みが非常に強く、熱を持っているような時は安静が必要ですが、全く動かないのは避けるべきです。 運動の目安は「翌日に痛みが残らない程度」です。ウォーキングをするなら、クッション性の高い靴を履き、平坦な道を選びましょう。水泳や水中ウォーキングは、膝への負担を浮力で減らしながら全身運動ができるため、特にお勧めです。
サプリメントを飲めば、すり減った軟骨は再生しますか?
残念ながら、口から摂取したサプリメントの成分が、そのまま膝の軟骨として再生されるという医学的な証拠は今のところ十分ではありません。 サプリメントはあくまで「栄養補助」として考え、それだけに頼るのではなく、適切な治療や筋力トレーニング、体重管理を組み合わせることが、膝の健康を維持するための最も確実な道です。
痛みがある時に膝を温めるのと冷やすの、どちらが正しいですか?
基本的には「温める」のが良い場合が多いです。血行が良くなると筋肉がほぐれ、痛みが和らぎます。 ただし、例外があります。膝が急に腫れて、触ると明らかに熱を持っている場合や、怪我をした直後などは「冷やす」ことで炎症を抑えます。判断に迷う時は、無理をせず専門医に相談してください。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

まとめ:あなたの膝は、もっと楽になれます
膝を曲げると痛い……その症状を「もう歳だから仕方ない」と諦めてしまうのは、あまりにももったいないことです。
確かに、膝の軟骨は長い年月をかけて頑張ってきた分、少しずつすり減っているかもしれません。しかし、私たちの体には素晴らしい適応能力があります。周りの筋肉を少しずつ鍛え、膝に優しい動作を心がけ、適切な医療の助けを借りることで、痛みはコントロールできるものなのです。
「また家族と旅行に行きたい」「庭の手入れを楽しみたい」「自分の足でいつまでも買い物に行きたい」
その願いを叶えるために、まずは今日から、椅子に座った時の足上げ運動を1回だけ始めてみませんか? あるいは、階段で手すりをしっかり握る、という小さな工夫からでも構いません。
もし、ご自身でのケアに限界を感じたり、痛みが強くなったりした時は、いつでも私たち整形外科医を頼ってください。あなたの膝の痛みを理解し、共に歩んでくれるパートナーが必ず近くにいます。
一歩踏み出すその勇気が、あなたの5年後、10年後の元気な毎日を作ります。一緒に、健やかな膝を目指していきましょう。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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