コラム COLUMN
膝 雪道で膝が痛む方へ。転倒を防ぎ関節を守るペンギン歩きのコツを整形外科医が伝授

こんにちは。札幌ひざのセルクリニック院長の川上公誠です。
札幌の街が白く染まる季節になると、私のクリニックには「雪道が怖くて外出を控えている」「冬になると膝の痛みが強くなる」という患者さんがいらっしゃいます。
先日も、70代の女性の患者さんがこうおっしゃっていました。 「先生、外はツルツルで歩くのが本当に怖いの。膝をかばって歩くと、帰ってきたときに膝がパンパンに腫れてしまって……。春まで家の中に閉じこもっているしかないのかしら」
冬の北海道や雪国にお住まいの方にとって、雪道や凍結路面は切実な問題ですよね。しかし、正しい知識と歩き方を身につければ、膝を守りながら冬の外出を楽しむことは十分に可能です。
今回は、整形外科専門医の視点から、冬の滑りやすい路面で膝を守るための歩き方の基本と、痛みを防ぐためのセルフケアについて詳しくお伝えします。
この記事の内容
なぜ冬の雪道は膝に負担がかかるのか
そもそも、なぜ冬の道はこれほどまでに膝に厳しいのでしょうか。それには医学的な理由がいくつかあります。
まず一つ目は、筋肉の緊張です。滑りやすい路面を歩くとき、私たちは無意識のうちに全身に力を入れます。特に太ももやすね、足首の筋肉がギュッと硬くなることで、膝関節をクッションのように使うことができなくなります。これを専門用語で「共収縮」と呼ぶこともありますが、筋肉が固まることで関節への衝撃がダイレクトに伝わってしまい、痛みを引き起こすのです。
二つ目は、寒さによる血行不良です。気温が下がると血管が収縮し、関節周辺の血流が悪くなります。関節を包む組織や筋肉が冷えて硬くなると、関節の滑らかな動きが損なわれ、炎症が起きやすくなります。
三つ目は、不安定な路面による関節へのストレスです。デコボコに凍った道や、新雪の下に氷が隠れている道では、一歩ごとに膝にかかる荷重の方向がバラバラになります。変形性膝関節症(へんけいせいしざかんせつしょう)などで膝の軟骨がすり減っている方にとって、この「ひねり」や「不意の揺れ」は大きな負担となります。
こうした要因が重なることで、冬はいつも以上に膝のトラブルが起きやすくなるのです。

雪道で膝を痛めないための歩き方の基本
雪道での歩き方には、夏場とは全く異なるコツが必要です。私が患者さんによくアドバイスしている、膝に優しい「冬の歩き方」のポイントを3つにまとめました。
重心を低く、歩幅は小さく
一番の基本は「小さな歩幅で歩くこと」です。夏場のように颯爽と大股で歩こうとすると、足を地面につく瞬間に滑りやすくなり、膝を支える力が分散してしまいます。
イメージとしては、普段の半分くらいの歩幅で、ちょこちょこと歩く「ペンギン歩き」を心がけてください。膝を少しだけ曲げた状態を保ち、重心をやや前方に置くことで、もし滑ったとしてもお尻から転倒するリスクを減らすことができます。
足裏全体で地面をつかむ
次に大切なのが、足のつき方です。通常、歩くときは「かかと」から着地しますが、凍結した路面でこれをやると非常に滑りやすいです。
雪道では、足の裏全体を同時に地面につけるイメージで着地しましょう。スタンプをポンと押すような感覚です。こうすることで地面との接地面積が広くなり、摩擦力が高まって滑りにくくなります。また、足裏全体で着地すると、膝にかかる衝撃が分散されるため、関節への負担も軽減されます。
視線は少し先へ、両手はあけておく
歩いているとき、足元ばかりを見ていませんか。実は、真下を見すぎると猫背になり、体の重心が不安定になります。視線は2メートルから3メートルほど先に置き、路面の状況(氷が光っていないか、雪がたまっているか)を早めに察知するようにしましょう。
そして、絶対に守っていただきたいのが「両手をあけておく」ことです。転びそうになったときに手が出ないのは非常に危険です。カバンはリュックにするか、斜めがけにして、ポケットには手を入れないようにしてください。手が自由に動かせる状態であれば、バランスを取りやすくなり、結果として膝を支える体幹も安定します。

家の中でできる!膝を守るための簡単ストレッチと筋トレ
外を歩く技術も大切ですが、それを支える「自分の体」を整えておくことも忘れてはいけません。病院でのリハビリテーションでも推奨されている、家の中で簡単にできるトレーニングを紹介します。
太ももの前の筋肉を鍛える(パテラセッティング)
膝を支える最大の味方は、太ももの前にある「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」という大きな筋肉です。
- 床や布団に足を伸ばして座ります。
- 膝の下に丸めたバスタオルを置きます。
- タオルを押しつぶすように、太ももにグッと力を入れて膝を伸ばします。
- 5秒間キープして、ゆっくり力を抜きます。
これを片足10回ずつ、1日3セット程度行いましょう。膝を直接動かす負担が少ないため、痛みがある方でも取り組みやすいトレーニングです。
足首の柔軟性を高める
雪道では足首が柔軟に動くことが、膝への衝撃を逃がすことにつながります。
- 椅子に深く腰掛けます。
- 片足を浮かせて、足首を大きくゆっくり回します。
- 右回し、左回しを10回ずつ行います。
お風呂上がりなどの体が温まっているときに行うと、より効果的です。

靴選びと防寒対策も大切なポイント
歩き方や筋トレと同じくらい重要なのが、道具と環境の準備です。
まず、靴は必ず「冬用底」のものを選んでください。北海道にお住まいの方なら馴染み深いですが、靴底に深い溝があったり、セラミックやゴムの特殊素材が使われていたりするものが理想的です。最近では、後付けできる「靴用滑り止めバンド」も市販されていますので、それらを活用するのも一つの手です。
また、膝を冷やさない工夫も欠かせません。保温性の高いサポーターや、裏起毛のズボン、レッグウォーマーなどを使用して、膝周辺の温度を保つようにしてください。血流が良くなるだけで、筋肉の強張りが取れ、痛みを感じにくくなることがあります。
冬の外出から戻ったら、お風呂でゆっくりと膝周辺を温め、優しいマッサージをしてあげるのも良いでしょう。

よくある質問・誤解への回答
ここでは、クリニックで患者さんからよく受ける質問にお答えします。
Q. 膝に痛みがあるときは、全く動かさないほうがいいのでしょうか?
A. 激しい腫れや、安静にしていてもズキズキ痛む「急性期」の場合は無理をせず休むことが大切です。しかし、動かさない期間が長すぎると、関節を支える筋肉が衰え、関節自体も硬くなってしまいます(拘縮と呼びます)。
強い痛みが落ち着いてきたら、今回ご紹介したストレッチや、家の中での軽い足踏みなど、無理のない範囲で動かすことが回復への近道です。ただし、雪道の歩行は想像以上に負荷がかかるため、痛みが強い日は無理に外出せず、室内での運動に切り替える柔軟さを持ちましょう。
Q. 冬だけ膝が痛むのは、やはり冷えのせいですか?
A. 冷えは大きな要因の一つですが、それだけではありません。前述したように、滑りやすい路面での「無意識な筋肉の緊張」や「不安定な歩行」が、膝の軟骨や組織に微細なダメージを与えている可能性があります。
また、日照時間が短くなる冬は、ビタミンDの生成が減り、骨や関節の健康に影響を与えることも指摘されています。冬だけ痛むという方は、まずは保温を徹底し、次に歩き方の改善を試してみてください。それでも改善しない場合は、関節内部に何らかの原因があるかもしれません。
Q. 市販のサポーターは雪道歩行に効果がありますか?
A. 非常に効果的です。サポーターには大きく分けて二つの役割があります。一つは「保温」、もう一つは「関節のグラつきを抑えること」です。
雪道では足元が不安定になるため、サポーターで膝を適度に圧迫・固定してあげると、脳に関節の位置情報が伝わりやすくなり(深部感覚の補助)、安心感が増します。ただし、締め付けすぎると逆効果になるため、自分が心地よいと感じる強さのものを選んでください。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

まとめ:雪道を味方につけて、冬を楽しみましょう
膝に痛みや不安があると、どうしても冬の外出が億劫になってしまいます。しかし、「もう年だから」「雪国だから仕方ない」と諦める必要はありません。
正しい歩き方を心がけ、必要な筋力を維持し、適切な道具で守ってあげる。この積み重ねが、あなたの膝を未来へとつなぎます。冬の澄んだ空気や、真っ白な景色は、この季節にしか味わえない素晴らしいものです。
もし、ご自身で対策をしても痛みが引かない場合や、歩くのがどんどん辛くなる場合は、一人で悩まずに私たち整形外科の専門医にご相談ください。現在は、手術以外にも、保存療法(リハビリや投薬、注射など)の選択肢が数多くあります。
大切なのは、痛みの原因を正しく知り、前向きな一歩を踏み出すことです。このコラムが、皆さんの冬の生活を少しでも明るく、軽やかなものにするお手伝いになれば幸いです。
冬の寒さに負けず、健やかな膝で新しい季節を迎えていきましょう。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
各種ご相談やご予約はこちら
- ひざの痛みに関する相談
- セカンドオピニオンの相談
- 再生医療に関する相談
- MRI検査のご予約


