コラム COLUMN
膝 沖縄に多い「変形性膝関節症」の原因とは?首里染めや食生活から考える膝の痛みと解消法

はいさい。クリニックの院長を務めております、整形外科専門医です。私は日々、関節の痛みに悩む多くの患者さんと向き合っていますが、実は沖縄県は全国的に見ても「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」という、膝の軟骨がすり減る病気で悩む方が非常に多い地域であることをご存知でしょうか。
診察室で患者さんのお話を伺っていると、こんな声をよく耳にします。 「昔はあんなに元気に歩けたのに、今は階段が怖くて」 「孫と一緒に遊びたいけれど、立ち上がる時に膝がピキッとしてつらい」 「病院でヒアルロン酸の注射を打っているけれど、その場しのぎな気がして……」
50代から80代という人生を謳歌すべき世代の皆さんが、膝の痛みのせいで外出を控えたり、趣味を諦めたりするのは、医師として本当にもったいないことだと感じています。
沖縄という素晴らしい土地で、いつまでも自分の足で歩き続けるためには、なぜ沖縄の人に膝のトラブルが多いのか、その「隠れた理由」を知ることが第一歩です。今回は、沖縄特有の文化や食生活、そして最新の知見に基づいた正しい対処法について、わかりやすくお話ししていこうと思います。
この記事の内容
なぜ沖縄の人に変形性膝関節症が多いのか
沖縄といえば「長寿の島」というイメージが強いですが、実は近年、足腰の健康寿命という点では大きな課題を抱えています。そこには、沖縄ならではのライフスタイルが深く関わっているのです。
伝統文化「首里染め」や織物と膝の関係
沖縄の美しい伝統工芸である「首里染め」や「紅型(びんがた)」、そして「機織り(はたおり)」。これらに携わる職人さんや、昔からこうした手仕事に親しんできた方々の膝には、特有の負担がかかっています。
こうした伝統的な作業の多くは、床に座って行う「床座生活(ゆかざせいかつ)」が基本です。深く膝を曲げる、あるいは正座から立ち上がるという動作は、膝関節にとって非常に大きな負荷となります。体重の数倍もの力が、膝のクッションである軟骨や「半月板(はんげつばん)」にかかり続けてしまうのです。
長年、美しい作品を作り続けてきた努力の証とも言えますが、その代償として膝の変形が進んでしまったというケースは少なくありません。
食生活の変化と「膝の重荷」
もう一つ、無視できないのが「食生活」の変化です。かつての沖縄は、島野菜や豆腐を中心とした非常に健康的な食事(伝統的な沖縄食)が中心でした。しかし、戦後の食の欧米化により、ポーク缶(スパムなど)や揚げ物、ファストフードを好む習慣が根付きました。
これがもたらしたのは「肥満(ひじょうに体重が増えること)」です。膝は、体の中で最も体重を支える関節の一つです。体重が1キロ増えると、歩くときには膝に3キロ、階段の上り下りでは7キロもの負担が増えると言われています。
沖縄のおいしい食事を楽しみつつも、知らず知らずのうちに膝へ「重荷」を課してしまっている。これが、沖縄で膝の痛みに悩む方が多い大きな要因の一つなのです。

変形性膝関節症ってどんな病気?
膝の痛みを「年齢のせいだから仕方ない」と片付けてしまっていませんか? 変形性膝関節症は、単なる加齢現象ではありません。関節の状態がどうなっているのか、イメージしやすいようにお伝えしますね。
膝の関節は、骨と骨が直接ぶつからないように、表面をツルツルした「軟骨(なんこつ)」が覆っています。これがクッションの役割を果たしています。さらに、関節の中は「関節液(かんせつえき)」という潤滑油で満たされています。
車の部品に例えると、長年の走行でタイヤがすり減り、オイルが汚れて動きが悪くなっている状態です。軟骨がすり減ると、骨同士が直接こすれ合い、炎症(はれや痛み)が起きます。これが、階段の昇り降りや、立ち上がり際の「ズキッ」という痛みの原因です。
進行すると、膝に水がたまったり、膝が真っ直ぐに伸びなくなったり(O脚の進行)してしまいます。
ヒアルロン酸注射で治らない理由
整形外科を受診すると、多くの場合「ヒアルロン酸注射」を勧められます。皆さんも経験があるかもしれませんね。
ヒアルロン酸はもともと関節の中にある成分で、確かに一時的には動きを滑らかにしたり、炎症を抑えたりする効果があります。しかし、あえて厳しい言い方をすれば、ヒアルロン酸は「すり減った軟骨を元に戻す魔法の薬」ではありません。
ヒアルロン酸は、関節の中に入っても数日で吸収されてしまいます。つまり、すり減った原因(筋力の低下や体重増加、骨の変形)がそのままなら、いくら油を差しても、すぐにまた痛みが出てしまうのです。「もう何年も打ち続けているけれど、全然良くならない」という方が多いのは、このためです。
対処療法(その場の痛みを取るだけ)を繰り返すのではなく、膝が痛まない「体づくり」と「根本的なアプローチ」を考えることが大切です。
今日からできる!膝を守る3つの対策
「もう手術しかないのかしら……」と落ち込む必要はありません。今の状態からでも、膝の負担を減らし、痛みを和らげる方法はたくさんあります。
1. 膝の「天然のサポーター」を鍛える
膝を支えているのは、太ももの前側にある「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」という大きな筋肉です。この筋肉が天然のサポーターとなって、膝のグラつきを抑えてくれます。
簡単な運動をご紹介しますね。椅子に座って、片足を床と水平になるまでゆっくり持ち上げ、つま先を自分の方に向けた状態で5秒間キープします。これを左右10回ずつ、テレビを見ながらでも良いので行ってみてください。これだけで、膝にかかる衝撃をぐっと減らすことができます。
2. 「床座」から「椅子座」へ生活をシフト
膝が痛む方の多くは、床に座ったり、低い布団から起き上がったりする動作がつらいはずです。無理をして畳の生活を続けるのではなく、なるべく椅子やベッドを使う「洋式生活」に切り替えましょう。
特に、正座や深いしゃがみ込みは膝の軟骨にとって非常に酷な動作です。ダイニングテーブルを使い、移動の際も手すりを利用するなど、環境を整えるだけで膝の痛みは劇的に楽になることがあります。
3. 食生活の見直し「沖縄の原点」へ
先ほどお話しした通り、体重管理は最大の治療法です。でも、無理なダイエットは続きませんよね。
おすすめは、かつての沖縄の食生活、いわゆる「ぬちぐすい(命の薬)」を意識することです。ゴーヤーやハンダマといった島野菜には、抗酸化作用(体をサビさせない力)があります。また、豚肉を食べる際も、しっかりと下茹でして余分な脂を落とす伝統的な調理法を心がけるだけで、摂取カロリーを抑えることができます。
少しずつ体重が減れば、膝は「あ、軽くなった!」と喜んでくれるはずですよ。

よくある質問・誤解への回答
膝の痛みについて、診察室でよくいただく質問にお答えします。
痛みがあるときは、なるべく動かさない方がいいですか?
かつては「安静が一番」と言われていましたが、現在は「無理のない範囲で動かすこと」が推奨されています。 ずっと安静にしていると、膝を支える筋肉がどんどん衰えて(筋萎縮)、余計に関節が不安定になり、痛みが増すという悪循環に陥ります。
激しい運動は禁物ですが、痛みが強くない範囲でのウォーキングや、先ほどお伝えした室内での筋トレは、関節の動きを保つために必要不可欠です。
サプリメントで軟骨は再生しますか?
テレビCMなどで「コンドロイチン」や「グルコサミン」を飲めば軟骨が再生するかのような宣伝がありますが、医学的な根拠は十分ではありません。 これらの成分は口から摂取しても、消化・吸収の過程で分解されてしまうため、そのまま膝の軟骨に届くわけではないのです。
気休めとして飲む分には構いませんが、サプリメントに頼るよりも、まずは適切な食事と運動習慣を身につける方が、はるかに膝のためになります。
手術をしないと、一生歩けなくなりますか?
そんなことはありません。手術(人工関節など)はあくまで最終的な手段です。 早い段階で、正しい筋力トレーニングや減量、足底板(靴の中敷き)による補正などを行うことで、手術を回避して元気に過ごされている方は大勢いらっしゃいます。
また、最近では私たちが専門とする「再生医療」のように、手術と従来の治療の間の選択肢も増えています。自分の状態に合った治療を見つけることが、歩き続けるための鍵となります。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

まとめ:諦めないで、膝の未来を信じましょう
「膝の痛みは、沖縄の人ならみんな持っているものだから」 「もう年だし、注射でごまかしながら付き合うしかない」
そんな風に諦めてしまうのは、本当にもったいないことです。沖縄には、いくつになってもカチャーシーを踊れるような元気な先輩方がたくさんいらっしゃいます。その秘訣は、自分の体を大切にし、正しい知識を持って対処することにあります。
膝の痛みは、体からの「少し休んで、ケアしてあげて」というサインです。伝統の首里染めのように、コツコツと手入れをすれば、皆さんの膝もきっと良い状態を長く保つことができます。
今の治療に不安があったり、もっと良い方法を探していたりするなら、ぜひ一度、信頼できる専門医に相談してみてください。私たちは、皆さんが自分の足で青い海を見に行き、家族と笑って過ごせる毎日を全力でサポートします。
あなたの膝は、まだまだ変われます。一緒に、健やかな一歩を踏み出しましょう。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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