コラム COLUMN
膝 階段の昇り降りで膝が痛い方へ。膝への負担を減らす歩き方3選を整形外科医が解説

最近、駅の階段や自宅の2階への昇り降りで、膝にズキッとした痛みを感じることはありませんか。 「よいしょ」と手すりに掴まらないと動けなかったり、下りる時に膝がガクガクして怖かったり……。 そんな経験をされると、外出するのが億劫になってしまいますよね。
当院に来られる患者さんからも、よくこんな声を耳にします。 「昔はスタスタ歩けたのに、今は階段を見るだけでため息が出る」 「旅行に行きたいけれど、階段が多い場所だったら迷惑をかけるから行けない」
こうした悩みは、50代から80代の多くの方が抱えていらっしゃいます。 でも、安心してください。 膝の痛みは、歩き方のコツを掴んだり、適切な対策を知ったりすることで、今の生活をずっと楽にすることができるのです。
今回は、関節の再生医療を専門とする医師の視点から、今日からすぐに実践できる「膝にやさしい歩き方」と、痛みの原因、そして最新の考え方についてお伝えします。
この記事の内容
なぜ階段で膝が痛むのでしょうか?
そもそも、なぜ平地を歩くときよりも階段のほうが膝に負担がかかるのでしょうか。 それには明確な理由があります。
実は、階段を昇るときには体重の約2倍から3倍、下りるときにはなんと約3倍から5倍もの負荷が膝関節にかかっていると言われています。 体重が60kgの方なら、階段を下りるたびに180kgから300kg近い重さが膝にかかっている計算になります。 これは、膝にとってかなり大きな負担ですよね。
特に、膝のクッションの役割を果たしている「軟骨」が少しずつ擦り減ってくると、骨同士が近づき、神経を刺激して痛みが生じます。 これを「変形性膝関節症」と呼びますが、加齢だけでなく、長年の歩き方の癖や筋力の低下が重なることで、痛みは増していきます。
多くの方が整形外科を受診し、ヒアルロン酸の注射を打たれているかもしれません。 もちろん、一時的に動きを滑らかにする効果は期待できますが、ヒアルロン酸はあくまで「潤滑油」のようなもの。 すり減ってしまった軟骨そのものを再生したり、膝のねじれを直したりする根本的な解決策にはなりにくいのが実情です。 何度も打ち続けるうちに「あまり効かなくなってきたな」と感じる方が多いのも、そのためです。
大切なのは、膝にかかる衝撃をいかに分散させ、これ以上軟骨を痛めないようにするか、という視点です。

膝への負担を劇的に減らす!階段の歩き方3選
それでは、具体的におすすめしたい「膝にやさしい歩き方」を3つご紹介します。 これを知っているだけで、階段への恐怖心がぐっと和らぐはずです。
1. 「昇りは良い足から、下りは痛い足から」を徹底する
これは、私たちがリハビリの現場でもお伝えする鉄則です。 覚え方はシンプルに「昇り良い(のぼりよい)、下り悪い(くだりわるい)」と覚えてください。
昇るときは、まず痛みのない方の足(良い足)を一段上に上げます。 その足で自分の体重をしっかり持ち上げてから、後から痛む方の足を揃えます。 これにより、痛む方の膝に急激な負荷がかかるのを防げます。
逆に下りるときは、先に痛む方の足(悪い足)を下ろします。 そして、一段上に残っている良い方の足で体重を支えながら、ゆっくりと重心を移動させていきます。 下りる動作は昇るよりも膝への衝撃が大きいため、しっかりとした方の足でコントロールしながら下りることがポイントです。
2. 膝をつま先と同じ方向に向ける
階段で膝を痛める方の多くは、膝が内側に入ってしまう「ニーイン」という状態になっています。 膝が内側に折れると、関節にねじれの力が加わり、軟骨に偏った負担がかかってしまいます。
歩くときは、膝のお皿とつま先が常に同じ方向を向くように意識してください。 特に踏み込む瞬間に膝が内側に逃げないよう、まっすぐ足を出すことを心がけるだけで、関節の摩擦は驚くほど軽減されます。
3. 体を少し前傾させ、手すりを「杖」のように使う
直立した姿勢で階段を昇ろうとすると、太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)だけに頼ることになり、膝に強い圧力がかかります。 少しだけ上半身を前に倒すと、お尻の大きな筋肉(大臀筋)を使いやすくなります。 お尻の力を使うことで、膝の負担を分散させることができるのです。
また、手すりは単に体を支えるだけでなく、積極的に活用しましょう。 手すりに少し体重を預けるだけで、膝にかかる荷重を数キロ単位で減らすことができます。 「恥ずかしいから」と手すりを避ける必要はありません。 膝を守るための大切なパートナーだと考えてください。

膝の痛みを根本から改善するためにできること
歩き方を意識するのと並行して、膝を支える力を養うことも重要です。 ここでは、自宅でできる保存療法(手術をしない治療法)のコツをお話しします。
まず取り組みたいのが「ストレッチ」です。 膝が痛いからといって動かさないでいると、膝の周りの筋肉や関節を包む膜が硬くなってしまいます。 特にお風呂上がりなど、体が温まっている時に太ももの前や後ろをゆっくり伸ばしてみてください。 筋肉が柔らかくなると、膝の可動域が広がり、階段での詰まり感が解消されやすくなります。
次に、適切な「装具(サポーターやインソール)」の活用です。 特に、靴の中に入れるインソール(足底腱膜)は、足のアーチを整え、膝への衝撃を和らげる効果があります。 市販のものでも構いませんが、自分の足の形に合ったものを選ぶことで、歩行時の安定感が劇的に変わります。
そして、今の医学では、手術を回避するための選択肢が広がっています。 これまでは「湿布と痛み止めで様子を見るか、いよいよダメなら人工関節の手術か」という極端な二択になりがちでした。 しかし最近では、患者さん自身の血液や細胞の力を使って、炎症を抑えたり組織を修復したりする「再生医療」という選択肢も定着してきています。
再生医療は、ヒアルロン酸注射のような一時しのぎではなく、膝の環境そのものを整えることを目的としています。 もし「どこに行っても良くならない」「手術は絶対に避けたい」と考えているのであれば、こうした新しい選択肢があることを知っておくだけでも、心のゆとりにつながるのではないでしょうか。

膝の痛みに関するよくある質問(Q&A)
Q. 痛みがあるときは、安静にして動かさないほうがいいですか?
A. 激しい炎症があり、膝が腫れて熱を持っているような時は安静が必要です。 しかし、慢性的な痛みの場合、ずっと安静にしているのは逆効果になることが多いです。 動かさないことで筋力が衰え、さらに関節が硬くなって痛みが強まるという悪循環に陥ってしまうからです。 今回お伝えした「負担の少ない歩き方」を取り入れながら、できる範囲で日常の動作を続けることが、回復への近道となります。
Q. 体重を減らさないと、膝の痛みは治りませんか?
A. 確かに体重が減れば膝への負担は確実に軽くなります。 しかし、痛みのために動けない状態で無理なダイエットをしようとすると、かえってストレスになり、健康を損ねることもあります。 まずは「体重を減らすこと」を目標にするよりも、今ある筋肉を維持し、関節のねじれを正す「歩き方の改善」から始めるのが現実的です。 正しく歩けるようになれば活動量が増え、結果として自然に体重が落ちていくという良い循環が生まれます。
Q. サプリメントは膝の軟骨を再生させる効果がありますか?
A. テレビCMなどで「軟骨の成分を補う」と謳うサプリメントをよく目にしますが、医学的な根拠としては、口から摂取したコラーゲンやグルコサミンがそのまま膝の軟骨になるわけではありません。 もちろん、栄養を補給するという意味で補助的に使うのは自由ですが、サプリメントだけで擦り減った軟骨が元通りになることは残念ながら期待しにくいです。 それよりも、専門医による適切な診断を受け、筋力トレーニングや姿勢の改善に取り組むほうが、はるかに高い改善効果が期待できます。

再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

「年齢のせい」と諦めないで。あなたの膝はもっと動けます
診察室で多くの患者さんとお話ししていると、「もう年だから、膝が痛いのは仕方ないですよね」と寂しそうに笑う方がいらっしゃいます。 私はいつも、その言葉を全力で否定したいと思っています。
確かに年齢とともに体は変化します。 しかし、膝が痛む理由には必ず「原因」があります。 歩き方の癖、筋力のバランス、関節内の炎症……それら一つひとつに丁寧に対処していけば、いくつになっても自分の足でしっかりと歩き続けることは可能です。
階段の昇り降りが楽になれば、スーパーへの買い出しも、お孫さんとの公園遊びも、ずっと楽しみにしていた温泉旅行も、すべてが輝きを取り戻します。
もし、今の治療に限界を感じていたり、手術しかないと言われて悩んでいたりするなら、どうか一人で抱え込まないでください。 医療は日々進化しています。 正しい歩き方を心がける。負担を減らす生活工夫をする。そして、再生医療のような新しい選択肢を検討してみる。 その一歩が、あなたのこれからの毎日を明るく変えていくはずです。
私たちは、あなたが「階段なんて怖くない」と思えるようになる日まで、しっかりとサポートし続けていきます。 諦める前に、まずは今日から「昇り良い、下り悪い」の歩き方を試してみてくださいね。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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