コラム COLUMN
股関節 変形性股関節症とは?初期症状と進行度に応じた治療の考え方

変形性股関節症は、股関節の軟骨が傷み、痛みや動かしにくさが生じる病気です。診断されても、すぐに手術が必要とは限りません。日本では骨盤側の受け皿が浅い「臼蓋形成不全」などが背景となり、加齢や体重、日々の負担も関係します。まずは整形外科で関節の状態を確認し、運動療法や生活の調整を基本に、痛みと暮らしへの影響に合わせて治療を選びます。歩き始めの痛みが繰り返す、靴下を履きにくい、歩ける距離が短くなった場合は受診しましょう。急に体重をかけられないほど痛む場合は、早めの評価が必要です。
この記事の内容
変形性股関節症とは?「軟骨のすり減り」だけではない病気
変形性股関節症とは、関節の表面を覆う軟骨が傷み、周囲の骨や関節内の組織にも変化が起こる病気です。足の付け根の痛みや、股関節の動かせる範囲の低下につながります。
股関節は、太ももの骨の丸い先端と、骨盤側の受け皿が組み合わさった関節です。軟骨は体重を支えながら関節を滑らかに動かす役割があります。軟骨自体には通常、痛みを感じる神経がなく、痛みには軟骨の下の骨や関節内の炎症、周囲の筋肉などが関わります。
そのため、軟骨が減った程度だけで、痛みの強さや必要な治療が決まるわけではありません。
初期症状は?歩き始めの痛みや日常動作の変化に注意
初期には、立ち上がるときや歩き始めに、足の付け根の痛み・こわばりを感じることがあります。少し動くと楽になる場合もありますが、繰り返す症状は確認が必要です。
- 椅子から立った直後や、最初の数歩が痛い
- 長く歩いた後に、足の付け根や太ももが重くなる
- 靴下を履く、足の爪を切る動作が以前より難しい
- 車への乗り降りや、階段で脚を動かしにくい
- 歩幅が小さくなり、片脚をかばって歩く
股関節の痛みを、お尻や膝の周辺に感じることもあります。痛む場所だけで「膝の病気」「腰の病気」と決めず、股関節も含めて診察します。症状が進むと安静時や夜間にも痛むことがありますが、夜に痛むという症状だけで末期と判断することはできません。典型的な症状については日本整形外科学会の解説も参考になります。
変形性股関節症が起こる主な原因
原因には、股関節の形や過去の病気が関係するものと、明らかな原因疾患を特定できないものがあります。「年齢のせい」「歩きすぎ」だけで説明できる病気ではありません。
臼蓋形成不全など、股関節の形の影響
臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)は、骨盤側の受け皿が浅く、太ももの骨の先端を十分に覆えていない状態です。体重を受ける範囲が狭くなり、軟骨の一部に負担が集中します。日本では、このような股関節の形成不全を背景とする患者さんが多くみられます。子どもの頃に股関節の治療を受けた記憶がなくても、形成不全が見つかる場合があります。
加齢、体重、けがやほかの病気
加齢に伴う変化、体重増加、長年の負荷なども関係します。過去の骨折や脱臼、大腿骨頭壊死症などに続いて関節が変形する場合もあります。背景を確認することで、今後の経過や治療の選択肢を考えやすくなります。原因の整理は慶應義塾大学病院の解説にも示されています。
進行度は4段階。ただし画像だけで治療を決めない
変形性股関節症は、主にレントゲン所見から前股関節症・初期・進行期・末期に分けます。これは関節の構造を評価する分類であり、痛みの点数や手術の必要性をそのまま表すものではありません。
| 病期 | レントゲンでみる主な変化 | 治療を考えるポイント |
|---|---|---|
| 前股関節症 | 受け皿の形成不全などはあるが、関節の隙間は保たれている | 痛みの原因と将来の負荷を確認。必要に応じて経過観察や運動指導 |
| 初期股関節症 | 関節の隙間が一部で狭くなり始める | 保存療法を基本に、形や軟骨の残り方によって関節を残す手術も検討 |
| 進行期股関節症 | 隙間の狭まりが進み、骨の変化も目立つ | 痛み・歩行・生活への支障と、保存療法の効果を評価 |
| 末期股関節症 | 関節の隙間が広い範囲でほぼ失われる | 生活への支障が大きければ人工股関節を相談。画像だけで即手術とは決めない |
病期の基本的な考え方は済生会の解説を参照し、治療の判断点を加えて整理しています。進行の速さには個人差があり、診断された時点で「何年後に手術になる」と一律に予測することはできません。
画像では変形が強くても生活に大きな支障がない人がいる一方、変形が軽くても強く痛む人がいます。後者では、炎症や周囲の筋肉・腱の問題、腰からくる痛み、別の骨の病気などを見直します。「画像に変形があること」と「現在の痛みの原因がすべてその変形であること」は別です。
整形外科ではどのような検査をする?
診察とレントゲンが基本です。MRIはすべての患者さんに必要な検査ではなく、症状とレントゲン所見が合わない場合や、ほかの病気が疑われる場合に追加します。
診察・レントゲンで確認すること
診察では、痛む場所と時間帯、歩き方、股関節の動き、筋力、脚の長さの左右差などを確認します。必要に応じて腰や膝も調べます。レントゲンでは、関節の隙間、骨の形、受け皿の浅さなどを評価します。軟骨自体が直接写るわけではなく、隙間の狭さなどから軟骨の状態を推測します。
MRIや超音波を追加する場合
急に痛くなった、体重をかけると強く痛む、レントゲンで説明できない痛みが続く場合は、MRIで骨頭壊死や見えにくい骨折などを調べることがあります。大腿骨頭壊死症では、レントゲンに特徴的な変化が出る前にMRIで異常が分かる場合があります。慶應義塾大学病院「大腿骨頭壊死症」
超音波は、関節にたまった液体や周囲の腱などの確認、注射の位置確認に役立ちます。骨の形や関節全体を調べるレントゲン・MRIとは、役割が異なります。
| 症状の特徴 | 変形性股関節症以外に確認する原因の例 |
|---|---|
| 腰痛とともに脚のしびれがある | 腰の神経の圧迫など |
| 股関節の外側が痛く、横向きで下にするとつらい | お尻の筋肉の腱や、周囲の滑液包の問題など |
| 急に強く痛み、体重をかけにくい | 骨折、大腿骨頭壊死症など |
| 発熱を伴い、股関節を動かすと激しく痛む | 関節の感染など |
症状は重なることがあるため、この表だけで自己診断せず、診察で確認してください。
手術以外の治療は?運動・生活調整・薬を組み合わせる
手術以外の治療を「保存療法」と呼びます。痛みを和らげ、歩行や生活動作を保つことを目標に、運動療法、負担の調整、薬などを組み合わせます。変形した関節を元の形に戻す治療ではありませんが、症状の改善が期待できる場合があります。
運動療法:休みすぎず、痛みを押して頑張りすぎない
股関節周囲や太ももの筋力を保つ運動、動かせる範囲を維持する練習を行います。短時間の歩行、水中歩行、負荷を調整した自転車運動などから、症状に合うものを選びます。筋力訓練の方法は医師や理学療法士に確認しましょう。
運動量は歩数の目標だけで決めず、運動中・運動後・翌朝の痛みで調整します。痛みが増して足を引きずる、翌日まで明らかに悪化が残る場合は、距離・回数・負荷を減らして相談してください。鋭い痛みを我慢するストレッチや、無理な開脚は避けます。
生活の調整:自宅でできる負担の減らし方
- 長い外出は小分けにする:休憩を入れ、重い荷物を持ったまま歩く時間を短くする
- 深くしゃがむ動作を減らす:低い椅子や床座りがつらければ、座面の高い椅子やベッドを使う
- 杖や手すりを活用する:片側の股関節痛では、一般に痛い側と反対の手で杖を持つ。高さや使い方は確認する
- 必要に応じて体重を調整する:過体重がある場合は減量を検討する。高齢の方は食事を減らしすぎて筋肉を落とさないよう注意する
負担の軽減と筋力の維持を両立させることが大切です。杖や水中歩行などは慶應義塾大学病院の保存療法の説明でも紹介されています。
薬物療法:動きやすくするために痛みを抑える
痛みが生活や運動の妨げになる場合は、消炎鎮痛薬などを検討します。胃腸や腎臓への影響、心臓の病気、ほかの薬との飲み合わせを確認し、種類・量・期間を調整します。痛み止めで楽になっても、急に活動量を増やさないことが大切です。
注射治療:効果と限界を確認して選ぶ
関節内へのステロイド注射は、短期的に痛みや炎症を和らげる選択肢です。股関節は体の深い位置にあるため、超音波などで位置を確認して行います。感染、血糖上昇などのリスクがあり、注射後の急速な関節症進行も報告されています。繰り返しの注射を安易に続けず、必要性や手術予定を含めて判断します。
ヒアルロン酸注射は、股関節では十分な効果が確認できていない研究もあり、標準的に勧められる治療とは言い切れません。膝に用いられる注射だから、股関節にも同じように効くとは限りません。注射だけで関節の変形が治るわけではなく、運動や生活の調整と合わせて考えます。
手術を考えるタイミングは?生活への支障が判断の軸
自分に合う保存療法を行っても痛みや生活上の不自由が大きい場合は、手術を相談する時期です。年齢や病期だけではなく、歩行・睡眠・仕事への影響、体の状態、本人の希望を合わせて判断します。
- 買い物や通勤など、必要な距離を歩くことが難しい
- 夜の痛みで睡眠が妨げられる
- 靴下、爪切り、入浴などに強い不自由がある
- 薬を使っても十分に楽にならない、または副作用で続けにくい
- 痛みのために外出や仕事、楽しみにしていた活動を大きく制限している
骨切り術:自分の関節を残すための手術
臼蓋形成不全などがあり、軟骨が比較的保たれている場合には、骨の向きや位置を変えて負担を分散する骨切り術を検討します。関節のかみ合い、年齢、活動性などの条件を評価します。骨がつながるまでの時間やリハビリが必要です。
関節の変形が進むと、骨切り術が適さなくなる場合があります。「まだ若いから」「歩けるから」と相談を先延ばしにせず、関節を残す選択肢があるか早めに確認することには意味があります。
人工股関節置換術:痛みと生活機能の改善を目指す手術
傷んだ関節を人工の関節に置き換えます。変形が進み、痛みや生活への支障が大きい場合に、症状や歩行能力の改善が期待できます。一方で、感染、脱臼、血栓、将来の入れ替えなどのリスクがあるため、利益と負担を確認して選びます。手術の種類と注意点は慶應義塾大学病院の解説にまとめられています。
保存療法を何か月続けたら必ず手術、という一律の決まりはありません。保存療法で生活を保てるか、手術で改善したいことは何かを医師と共有しましょう。すべての注射や薬を試し終えるまで相談を待つ必要もありません。
受診の目安と、診察で伝えておきたいこと
痛みを繰り返す、股関節が動かしにくい、歩く距離が短くなった場合は整形外科を受診してください。診断済みでも、以前と異なる痛みや急な悪化があれば、関節症だけが原因と考えず再評価が必要です。
当日中の相談を考えたい症状
- 転倒後、または突然の痛みで立てない・体重をかけられない
- 発熱を伴い、股関節を少し動かすだけでも激しく痛む
- 短い期間で痛みや歩きにくさが急激に悪化している
骨折や感染など、早めの対応が必要な病気が隠れている可能性があります。歩けない場合は無理に移動せず、医療機関に連絡してください。
自己チェックは、診断より「変化の記録」に使う
自宅では無理に股関節をひねって確かめず、痛むタイミング、休まず歩ける時間、睡眠への影響、難しくなった動作を記録しましょう。飲んでいる薬と、これまで試した治療も伝えると役立ちます。
治療後も「痛みが減ったか」だけでなく、「買い物に行けるか」「夜に眠れるか」など、本人にとって大切な目標で振り返ります。改善が乏しい場合は、運動量、薬、痛みの原因、手術相談の必要性を見直します。
再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

まとめ:進行度と暮らしへの影響を合わせて治療を選ぶ
変形性股関節症の治療は、画像の変化に加えて、痛みや生活への支障、年齢、活動性、これまでの治療効果を踏まえて選びます。
- 初期には、歩き始めの足の付け根の痛みやこわばりがみられる
- レントゲンの進行度と痛みの強さは、必ずしも一致しない
- 運動・生活調整・薬などで、症状を和らげられる場合がある
- 保存療法で生活を保てない場合や、関節を残す手術の可能性がある場合は、適切な時期に手術を相談する
症状が続く場合は整形外科で原因を確認し、自分の生活に合う治療方針を相談しましょう。
変形性股関節症についてよくある質問
日常生活や今後の見通しについて、よくある疑問にお答えします。
Q1.変形性股関節症の痛みが消えたら、通院をやめてもよいですか?
痛みが消えても、関節の形や軟骨の状態が元に戻ったとは限りません。症状が落ち着けば受診間隔を延ばせる場合もあります。通院や画像検査の頻度は、形成不全の程度やこれまでの変化を踏まえて主治医と相談してください。
Q2.変形性股関節症でも旅行に行けますか?
症状が安定していれば、旅行を楽しめる場合があります。移動や観光の歩行距離を減らし、休憩、エレベーター、杖などを活用しましょう。普段より長く歩く予定がある場合は、事前に主治医と活動量や薬の使い方を確認してください。
Q3.サポーターをつければ、変形性股関節症の進行を防げますか?
サポーターだけで進行を防げるとはいえません。装着して楽になる場合はありますが、関節の形や失われた軟骨を元に戻すものではありません。締めつけによるしびれや皮膚のトラブルがあれば使用をやめ、運動療法や負担の調整も続けましょう。
Q4.「末期股関節症」は、もう歩けなくなるという意味ですか?
いいえ。「末期」は主に画像上の関節の傷みが進んだ段階を表し、歩行能力や余命を示す言葉ではありません。歩ける程度には個人差があります。痛みや生活への支障が大きければ、人工股関節を含めて機能の改善を目指す治療を相談できます。
参考文献・関連情報
- 日本整形外科学会「変形性股関節症」
- 済生会「変形性股関節症」
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「変形性股関節症」
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「大腿骨頭壊死症」
- Minds「変形性股関節症診療ガイドライン2024(改訂第3版)」書誌情報(ガイドラインの刊行情報。本文は掲載準備中)
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
各種ご相談やご予約はこちら
- ひざの痛みに関する相談
- セカンドオピニオンの相談
- 再生医療に関する相談
- MRI検査のご予約


