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再生医療 脂肪由来幹細胞治療とは?メカニズムと再生医療の可能性

再生医療という言葉を耳にする機会が増えましたが、その中でも注目されているのが「脂肪由来幹細胞治療」です。これは、手術を回避したい方や関節の痛みに悩む方にとって、新たな選択肢となりつつあります。本記事では、脂肪由来幹細胞(ADSCs)とは何か、その働きや治療の流れ、そして再生医療としての可能性について、専門的な内容をわかりやすく解説します。
脂肪由来幹細胞とは?
幹細胞とは、さまざまな細胞に変化する能力(分化能)と、自己を複製する能力(自己複製能)をもつ特別な細胞です。中でも「脂肪由来幹細胞(Adipose-Derived Stem Cells:ADSCs)」は、その名の通り、体内の脂肪組織から採取される幹細胞で、骨や軟骨、筋肉、血管などさまざまな細胞に分化する能力を持っています。
脂肪組織には、骨髄よりも多くの幹細胞が含まれており、比較的負担の少ない方法で採取できる点が大きな特徴です。特に整形外科分野では、変形性膝関節症や半月板損傷などの治療に応用されています。
脂肪由来幹細胞が注目される理由
脂肪由来幹細胞は、炎症を抑える「抗炎症作用」、傷ついた組織を修復に導く「分化誘導」、さらに周囲の細胞の働きを高める「パラクライン効果」など、多くの治療効果が期待されています。
また、本人の脂肪組織を用いるため拒絶反応のリスクが少なく、安全性の高い治療として注目されています。採取から治療に使用するまでの期間も短いため、患者さんの負担が比較的少ないのも利点です。
治療の流れと具体的な手順
脂肪由来幹細胞治療の一般的な流れは以下の通りです。
- 脂肪採取
腹部や太ももなどから、局所麻酔下で少量の脂肪組織(米粒4粒ほど)を採取します。 - 幹細胞の分離・培養
専門の再生医療機関で幹細胞を抽出・培養し、一定数まで増やします(約6週間程度)。 - 幹細胞の注入
増殖した幹細胞を関節内に注入します。注射で行うため入院は不要で、外来治療が基本です。 - 経過観察・リハビリ
治療後は日常生活に戻れますが、医師の指導のもとで無理のない範囲でリハビリや運動療法を続けます。
対象となる疾患と効果
脂肪由来幹細胞治療は、次のような関節疾患に効果があると報告されています。
- 変形性関節症全般
- 半月板損傷
- 軟骨欠損
- 肩の腱板断裂
- 股関節や足関節の障害
これらの疾患に対して、関節内の炎症が軽減され、痛みの改善や可動域の向上が期待できます。また、画像評価においても軟骨の再生や改善が報告されており、手術を回避できた症例もあります。
再生医療としての可能性と課題
脂肪由来幹細胞治療は、再生医療の中でも比較的実用段階に近い治療といえます。しかし、まだ保険適用外の自由診療であり、費用負担が大きい点や、すべての患者に同様の効果が出るわけではないことも理解しておく必要があります。
治療を検討する際には、再生医療等提供機関として届け出済みの医療機関で、実績や症例を確認することが大切です。
まとめ
脂肪由来幹細胞治療は、従来の治療法では改善が難しかった関節の症状に対して、新たな可能性を提示する再生医療のひとつです。自己組織を用いた自然な治療でありながら、高い修復力と安全性が期待されます。
膝や関節の痛みでお悩みの方、手術以外の選択肢を検討したい方は、一度、再生医療の専門医に相談してみてはいかがでしょうか。
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。


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