コラム COLUMN
ヒアルロン酸を打ち続けても大丈夫?膝の寿命を延ばす新常識

「もう何年も膝にヒアルロン酸を打っています。このまま続けても大丈夫でしょうか」
診察室では、このようなご相談をよく受けます。
膝の痛みで整形外科に通っている方にとって、ヒアルロン酸注射はとても身近な治療です。「膝の潤滑油のようなものです」「クッションを補う注射です」と説明され、定期的に関節注射を受けている方も多いのではないでしょうか。
たしかに、ヒアルロン酸注射で一時的に膝の痛みが軽くなる方はいます。歩き始めが楽になった、階段の上り下りが少し楽になった、外出しやすくなったという声もあります。
この記事の内容
ヒアルロン酸は膝を治す注射ではありません
一方で、注意したいのは「ヒアルロン酸を打ち続けていれば、膝が良くなっていく」と思い込んでしまうことです。
ヒアルロン酸注射は、すり減った軟骨を元通りに戻す治療ではありません。膝の動きをなめらかにしたり、痛みを一時的にやわらげたりすることを目的とした治療です。
つまり、痛みを抑える補助にはなっても、膝の寿命そのものを延ばす主役とは言いにくいのです。
「注射をしているから安心」と考えて、筋力低下や体重増加、歩き方の乱れを放置してしまうと、膝の変形が少しずつ進んでしまうことがあります。
ヒアルロン酸を打ち続けても大丈夫かどうかは、回数だけで判断するものではありません。大切なのは、その注射で本当に生活が楽になっているのか、膝を守るための運動や生活改善も一緒にできているのか、という点です。
膝の寿命を縮める原因は「注射不足」ではありません
筋力低下が膝の痛みを悪化させます
膝の痛みがあると、多くの方は「痛みを取ること」を一番に考えます。もちろん、痛みを軽くすることは大切です。痛みが強いままでは、歩くことも外出することもつらくなります。
しかし、膝の寿命を考えるうえで本当に注意したいのは、痛みだけではありません。
膝の寿命を縮める大きな原因には、太ももの筋力低下、関節の硬さ、体重増加、歩く量の減少、O脚の進行、足元のバランスの崩れなどがあります。
たとえば、膝が痛いからといって外出を控えるようになると、太ももの筋肉が落ちていきます。太ももの筋肉は、膝を支える天然のサポーターのような存在です。この筋肉が弱くなると、歩くたびに膝への負担が増えます。
その結果、さらに痛くなり、さらに歩かなくなる。これが膝の痛みでよく見られる悪循環です。
関節が硬くなると歩き方も崩れます
膝を動かす機会が減ると、関節が硬くなります。膝が伸びきらない、深く曲げられない、立ち上がりに時間がかかるという状態になると、歩き方も崩れやすくなります。
歩き方が崩れると、膝の内側や外側の一部分に負担が集中します。特にO脚傾向がある方では、膝の内側に負担がかかりやすく、変形性膝関節症が進みやすくなることがあります。
ここで考えていただきたいのは、ヒアルロン酸注射だけでこの悪循環を止められるか、ということです。
注射で一時的に痛みが軽くなっても、筋力が落ちたまま、体重が増えたまま、歩き方が乱れたままであれば、膝への負担は大きく変わりません。
つまり、膝の寿命を延ばすために必要なのは、ヒアルロン酸を打ち続けることそのものではなく、膝を支える力を取り戻すことです。
ヒアルロン酸注射の限界と見直すタイミング
効果には個人差があり、一時的なことも多いです
ヒアルロン酸注射は、膝の関節内にヒアルロン酸を入れる治療です。ヒアルロン酸は関節液にも含まれる成分で、膝の動きをなめらかにする働きがあるとされています。
ただし、ヒアルロン酸注射には限界があります。
まず、効果には個人差があります。よく効く方もいれば、ほとんど変化を感じない方もいます。比較的軽い変形性膝関節症では楽になることもありますが、軟骨のすり減りが進み、骨への負担が強くなっている場合には、効果が乏しくなることがあります。
次に、効果は基本的に一時的です。注射をしたからといって、膝の形や軟骨の状態が大きく改善するわけではありません。
そのため、何度も打っているのに痛みが変わらない、すぐに痛みが戻る、歩ける距離が短くなっているという場合には、治療方針を見直す必要があります。
こんな状態なら治療方針の見直しが必要です
特に注意したいのは、次のような状態です。
ヒアルロン酸注射をしても数日しか楽にならない。
以前より効き目が弱くなっている。
膝に水がたまる状態を繰り返している。
階段や坂道がつらくなっている。
歩く距離が以前より短くなっている。
痛み止めや湿布の使用が増えている。
このような状態でヒアルロン酸を打ち続けても、「治療しているつもり」になっているだけで、実際には膝の機能低下が進んでいることがあります。
もちろん、ヒアルロン酸注射をすべて否定する必要はありません。注射によって明らかに痛みが軽くなり、日常生活が保てている方もいます。その場合は、医師と相談しながら継続する選択肢もあります。
ただし、漫然と続けるのはおすすめできません。
「いつもの注射をお願いします」で終わるのではなく、「今の膝の状態はどうなっているのか」「運動療法は必要ないのか」「装具や足底板は使えないのか」「手術を避けるために今できることは何か」を確認することが大切です。
ヒアルロン酸注射のやめ時とは、完全に中止するタイミングという意味ではありません。今の治療が自分の膝に本当に合っているかを見直すタイミング、と考えるとよいでしょう。

膝の寿命を延ばす新常識は保存療法の組み合わせです
運動療法で膝を支える力を取り戻す
膝の寿命を延ばす新常識は、「注射だけに頼らないこと」です。
膝を長く使うためには、保存療法を組み合わせることが大切です。保存療法とは、手術以外で膝の痛みや機能を改善する治療のことです。運動療法、ストレッチ、体重管理、装具、足底板、薬、生活指導などが含まれます。
特に重要なのは、太ももの筋肉を守ることです。
膝が痛い方におすすめされる代表的な運動に、椅子に座って膝を伸ばす運動があります。椅子に浅く座り、片方の膝をゆっくり伸ばして数秒保ち、ゆっくり下ろします。痛みのない範囲で、左右それぞれ10回程度から始めるとよいでしょう。
「運動すると膝が悪くなりそう」と心配される方もいます。ですが、適切な運動は膝を守るために必要です。大切なのは、痛みを我慢して無理に行うことではなく、膝に合った強さで続けることです。
ストレッチと体重管理も膝の負担を減らします
ストレッチも大切です。膝が完全に伸びにくくなると、歩くときに常に膝が少し曲がった状態になり、太ももやふくらはぎに余計な負担がかかります。
膝の裏を伸ばすストレッチや、太ももの前側を軽く伸ばす運動を取り入れることで、歩きやすさが改善することがあります。
体重管理も重要です。膝には、歩くときに体重以上の負担がかかります。体重が少し増えるだけでも、階段や坂道では膝への負担が大きくなります。
急激なダイエットは必要ありません。間食を減らす、夜遅い食事を控える、たんぱく質を意識して筋肉を落とさないようにするなど、できることから始めましょう。
装具や足底板で膝への負担を分散する
O脚が強い方や、膝の内側ばかり痛む方には、足底板や膝装具が役立つこともあります。足元のバランスを整えることで、膝の一部分に集中している負担を分散できる場合があります。
痛みが強い時期には、薬や外用薬、関節注射を上手に使うこともあります。ただし、薬や注射はあくまで「動ける状態を作るための補助」と考えることが大切です。
痛みを少し抑え、その間に筋力や柔軟性を取り戻す。この流れが、膝の寿命を延ばすうえでとても重要です。
よくある質問
Q. ヒアルロン酸注射は何回までなら安全ですか?
A. 一概に「何回まで」と決まっているわけではありません。
ただし、回数よりも大切なのは、効果が出ているかどうかです。注射をして痛みが軽くなり、歩行や日常生活が改善しているなら、医師と相談しながら続けることもあります。
一方で、何回打っても変わらない、効いてもすぐ戻る、膝の腫れを繰り返すという場合は、ヒアルロン酸を打ち続ける意味が薄くなっている可能性があります。その場合は、運動療法や装具、生活習慣の見直しを含めて、治療方針を再検討しましょう。
Q. 痛みがあるときは動かさない方がいいですか?
A. 強い痛みや腫れがあるときに、無理に歩いたり運動したりする必要はありません。
ただし、長期間まったく動かさないのはおすすめできません。膝を支える筋肉が落ち、関節が硬くなり、かえって痛みが長引くことがあります。
痛みが落ち着いている範囲で、椅子に座って膝を伸ばす運動や、軽いストレッチから始めるのがよいでしょう。「運動してよい痛み」と「休むべき痛み」の判断が難しい場合は、整形外科で相談してください。
Q. ヒアルロン酸注射を続ければ手術を避けられますか?
A. ヒアルロン酸注射だけで、必ず手術を避けられるわけではありません。
注射で痛みが一時的に軽くなっても、膝の変形そのものが止まるとは限りません。手術回避を目指すなら、筋力維持、体重管理、歩き方の改善、装具の活用などを組み合わせることが重要です。
「注射を続けているから大丈夫」と考えるより、「膝を守るために何を組み合わせるか」という視点が大切です。
再生医療という新しい選択肢
近年では、従来の治療に加えて再生医療という新しい選択肢も登場しています。特に、幹細胞治療やPRP(多血小板血漿)治療といった方法は、体の自然治癒力を引き出して関節の修復を促す治療法として注目されています。
例えば、脂肪から採取した幹細胞を関節に注入する治療では、変性した軟骨の修復や再生が期待できます。これにより、「もう正座はできないかも…」とあきらめていた方が、再び正座ができるようになったケースもあります。
ただし、再生医療はすべての症例に効果があるわけではないため、適応の有無をしっかり診断してもらうことが重要です。

年齢のせいと諦めず、膝の状態に合った対策を
膝の治療は注射だけで考えないことが大切です
ヒアルロン酸を打ち続けても大丈夫かどうかは、多くの方が気になるテーマです。
結論として、ヒアルロン酸注射そのものをすべて否定する必要はありません。ただし、漫然と打ち続けるだけでは、膝の寿命を延ばす十分な対策とはいえません。
膝の痛みを本当に改善していくためには、注射だけでなく、筋力、柔軟性、体重、歩き方、生活習慣を総合的に見直すことが大切です。
膝の痛みがあると、「年齢のせいだから仕方ない」「もう手術しかないのでは」と不安になる方も少なくありません。
しかし、今の膝の状態を正しく知り、自分に合った保存療法を続けることで、歩きやすさや生活のしやすさが改善する方は多くいます。
ヒアルロン酸注射を何年も続けている方、最近効きにくくなってきたと感じる方、手術はできれば避けたいと考えている方は、一度治療方針を見直してみてください。
膝の寿命を延ばすために大切なのは、痛みをごまかすことではなく、膝を支える力を取り戻すことです。
年齢のせいと諦めず、今できる対策から始めていきましょう。
札幌ひざのセルクリニックでは、患者様の症状に合わせた適切な診断と治療計画のご提案をしております。ひざだけでなく、肩、股関節等の関節、また長引く腰痛などの慢性疼痛の治療も行っております。西18丁目駅徒歩2分、札幌医大目の前にありますので、お気軽に御相談下さい。
院長 川上公誠
(プロフィール)
監修 川上 公誠(整形外科専門医)
札幌ひざのセルクリニック院長
岐阜大学医学部卒業。母が人工関節手術で痛みから解放された経験をきっかけに整形外科医を志し、これまでに人工関節置換術を含む手術を5,000件以上手がけてきました。手術が難しい高齢者や合併症のある方にも寄り添える治療を模索する中で再生医療と出会い、その効果に確信を得て、2024年に「札幌ひざのセルクリニック」を開院。注射のみで改善が期待できるこの先進的な治療を、北海道中に届けたいという想いで、関節に特化した再生医療を提供しています。
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